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これの続編
Unidentified Flying Object、それ即ちUFO。日本語で言うなら、未確認飛行物体。そんなオカルトの代名詞、よっぽどそういうのが好きな胡散臭い奴との会話にしか登場しないだろう。そう思っていた数か月前の自分の肩を優しく叩いてやりたい。せいぜい聞いて驚いてくれ、Mr.My yesterday。お前はこの春に入社してきた同い年の後輩に一目惚れする。そしてそいつこそが、よっぽどそういうのが好きな胡散臭い奴なんだ。
「へぇ、ひぐちさんも恋愛で悩んだりするんだ…ちょっと意外」
そう言って、女探偵はさも可笑しそうに微笑んだ。助手の男は無関心といった様子で、デスクに長い脚を乗せてふんぞり返っている。これじゃあどちらがここの主だかわからないが、最早お馴染みの光景である。ここは桂木弥子魔界探偵事務所。俺はここの探偵が世界一と呼ばれ始める前からの付き合いだし、仕事柄持ちつ持たれつの関係であるため、こうして気軽にお茶することができるのだ。サボりなんて言うなよ、人聞きの悪い。
「茶化すなよ桂木ィ…」
こう見えても結構いっぱいいっぱいなんだぞ。そうじゃなきゃ、こんな勘の鋭い相手に「UFOとか好き?」なんて話題振らない。誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
「でも、話聞いた感じじゃ、全然脈ありじゃないですか」
桂木は恋バナを楽しむ年相応の女の子の顔で俺を鼓舞するように拳を握った。俺が手土産として携えてきたタコヤキは、ものの二秒でこの探偵の胃袋に消えている。
「ぬいぐるみに嫌いな人の名前付ける女の子なんていませんよ〜」
桂木はそう言うが、彼女がユウヤクンと名付けてデスクに飾ってあるぬいぐるみは、お世辞にも可愛いとは言えないどころか、醜悪と称してもいいグレイのかたちをした代物だ。プレゼントしておいてこう言うのもあれだが、間違っても好きな人の名前はつけないだろう。署内では俺と彼女に関する浮ついた噂が飛び交っているが、四十五日くらいで消えていくに違いない。…あ、七十五日だっけ?

適当に時間を潰してから、デスクにUSBを取りに戻った。特例の俺と違って常勤の彼女が隣のデスクでキーボードを叩いている。盗み見るだけのつもりが、その綺麗な横顔に思わず見蕩れていた。
「結也くん、いらっしゃい」
俺としてはおかえりなさいと言って欲しいところだが、どうやら彼女は俺を来訪者だと認識しているらしい。せっかく机が並んでいるのだから、もっと事務所に顔を出す回数を増やそうと心に決めた。
「これ、俺の名前らしいじゃん」
横からうんと腕を伸ばして、ペンスタンドにもたれるようにして飾られていた宇宙人のぬいぐるみを掻っ攫う。やっぱり可愛くない。
「そうだよ、結也くんがくれたから、ユウヤクン」
当たり前のことのようにそう説明しながら、区切りがついたのか、彼女は手を止めてこちらを向く。その表情には照れとか恥じらいとか、そういう恋愛に付随しそうな余計なオプションは皆無だ。このシンプルな美しさが彼女の魅力。惚れた弱みってやつだ。全然脈ありじゃないですか。名探偵の言うことは希望的観測も込みで信じてやりたいけど、これは厳しいんじゃね―の、桂木。
「奪っちゃった…なんちゃって」
ひと昔前に流行ったCMを真似て、不細工なぬいぐるみを彼女の口に軽く押し付けた。そもそも口があるのだろうかと、やってみてから思って確認したら、大きな鼻の穴の下に黒い線が入っている、多分これが口だろう。
「口の一番大きな役割って消化管の最前端だと思うんだけど、グレイモンスターがそこから栄養を摂取するとは限らないよね?」
「うん、俺が悪かった」
予想の斜め上をいく、けれども非常に彼女らしいリアクションに、あきれる気持ちとは裏腹に、ついつい口許が綻んでしまう。その一般論に当てはまらないとこ、嫌いじゃないよ。
「…別にゆうやくんにだったら、奪われてもいいんだけどね」
「え?」
前言撤回。やっぱり脈ありかもしれない。



2017.02.18 うさみんへ