超常現象マニアというのが、なんの名誉にもならない世間からの私に対する評価である。特に私の心を捕えて離さないのが未確認飛行物体の類で、Unidentified Flying Object-アンアイデンティファイド・フライング・オブジェクト、それ即ちUFOをこの目で見ることが出来るなら、なんというかもう死んでもいいとすら思いながら生きてきた。それも結構、小さい頃から。当たり前のことだけど、これを言ったら大抵の人は引いた。両親を含めて、あんまり皆が引くものだから、仕舞いにはちょっと楽しくなってきて、私はナンパやキャッチセールス、宗教の勧誘まで、声を掛けられてあまり嬉しくない場合は率先してこの話をした。オカルトマニア上等だ。フー・ファイターもパンアメリカン航空事件も知らない相手と、一体何を話せと言うのだろうか。案の定、というべきか、彼等はまるで私に声を掛けたこと自体が失敗だったというように、半笑いを浮かべて去っていった。超自然的なものに興味がない人からすれば、私こそがエイリアンのようなものだろう。 「何読んでんの?」 貴重な休憩時間を駆使して雑誌を捲る私に、隣のデスクの結也くんが声をかけてきた。そうはいっても、毎日出勤する私と違って、彼は殆ど在宅勤務なので、実際に横で働いていることは稀である。 「“UFOと宇宙”…面白いよ」 私の趣味は職場ではほぼ公認なので、私は自重しない。ちなみにこれ、1973年から10年間続いたUFOの専門誌で、マニアだったら垂涎の書だ。今となっては非常に入手困難であり、集めるのに苦労したのだが、そんなことは今目の前でひきつった顔をしている結也くんにはどうでもいいだろう。 「宇宙人、好きだね」 「残念、私が好きなのはUnidentified Flying Object、だよ」 結也くんは難儀そうに肩を竦めた。UFOのことだよ、って。何度教えてあげても彼は覚えない。 社会人になると、生まれ年が同じというだけで相手に親近感を感じ、仲良くなってしまうことが稀にある。結也くんと私がそうだ。私達は同じ歳だけど、同期じゃない。特例刑事の結也くんは私より随分先輩だ。最初は敬語を使おうとしたが、慣れないからやめてくれと断固拒否された。以来、署内で一番と言っても過言ではないくらい親しくしてもらっている。電脳世界では向かうところ敵なしの、彼は謂わば超科学的人間。フラットウッズモンスターすら知らない状態で、私とここまで喋る相手は相当貴重だ。私はたまにしか会わないこの同僚のことをもっと大切にしようと決意して雑誌を閉じた。 「結也くんは何してるの?」 「え、別に何も…強いて言うなら、ネサフ?」 何故そこで疑問系なのか。私が本から目を話したことがよっぽど意外だったらしく、結也くんは目を真ん丸にしている。 「結也くんがユーフォロジーに明るかったらなぁ…」 「うん、ごめんだけどハッキングとクラッキングくらいしか出来ないし、専門外」 「色んな議論ができるよ?」 「うわっ…全然したくない」 結也くんはオーバーに引いた素振りを見せると、机の上に無造作に放ってあったショルダーバッグをあさり始める。交信終了だと思い、私は再び愛読書を開こうとした。 「とりあえず、コイツを俺だと思って議論しててよ」 そう言って、結也くんが私の机に置いたのは、グレイタイプの宇宙人を模した手のひらサイズのぬいぐるみだった。グレイの異質な風貌が短い毛で覆われたそれは、お世辞にも可愛いとは言えない。 「これ、どうしたの?」 「昨日ゲーセンでとった」 私はおそるおそる、ぬいぐるみを手に取った。毛の生えたグレイ。愛嬌はあるかもしれない。 「貰っていいの?」 「いいよ、宇宙人好きでしょ?」 私が好きなのはUFOであり、宇宙人フリークがグレイを愛好する気持ちはむしろUMAに対するものに近いと思われるので、まったく別だというのが私の持論なのだが、得意気な結也くんに対してそんな意地悪を言うつもりにはなれなかった。 「うん、好き!ありがとう!」 結也くんは今更照れ臭くなったのか、頬を染めてそっぽを向いた。 ちなみにこの後、「大事にしてやってよ」と言われたので、貰ったぬいぐるみにユウヤクンと名付けて可愛がっていたら、署内で変な噂が流れるのだが、それはまた別の話である。
UFOなんてフリスビーみたいに飛ばしてやるよ 2015年!(祝)ひぐたん! |
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