みそう






最悪なことというのは、毎日少しずつ消化されるものではなく

ある日突然やって来たかと思うと、嵐のように心の中を乱して壊してかき回していく。



なまえが所有する、それなりにお洒落で広いマンションは居心地がいいらしく

交際して半年も経つ頃には、なし崩し的に転がり込んできた彼氏と半同棲状態になっていた。

なんだかんだ忙しく、毎日残業続きだったなまえの為に

比較的早い時間に帰宅する彼氏がたまに晩御飯を作ってくれていた。



あんまり彼女っぽいことしてないな。

最近はセックスだってご無沙汰だし、寂しい思いをさせてるのかも。

よし、今日は早く帰って好物のハンバーグでも作ってあげるか。





溜まった仕事を目分量で見定めながら、これなら帰れそうだと算段する。

締切が迫った仕事はあらかた終わっているし、明日必要な資料はもう出来上がっている。

今日一日くらい、早く上がったって大丈夫だろう。

部長も何かと心配してくれているし、お言葉に甘えてなまえはいつもよりずっと早く帰路についた。




近所のスーパーでひき肉やら玉ねぎやらを買い込み、揚々と家路を急ぐ。

ガサガサと大きなビニール袋が揺れる。

ビールも恵比寿を何本か購入し、喜ぶ顔を想像してにやけてしまう。

きっと彼はこう言うだろう。

『うわぁ、なまえの手料理なんて久しぶりじゃん!うん!美味しいよ!!』

そうしたら近頃忙しかったことを謝ろう。

寂しい思いをさせた詫びに、彼の好きな場所へデートへ行こう。





時刻はまだ17時。彼の勤務時間帯から考えても、まだ家に誰もいない時間だ。

オートロックを解除し、エレベーターに乗り、愛しい我が家へ向かう。

コツコツと廊下に響くヒールの音が、いつもと違って小気味よく聞こえる。

重いビニール袋を上手いこと持ってキーケースから鍵を取り出す。

ガチャン、と音がして玄関の扉が開いた。





「・・・なにこれ。」





目に付いたのは、ベージュに大きなビジューがあしらわれた女物の靴。

なまえの趣味ではない。

一見して知らない人間の靴だとわかるそれは不揃いに脱ぎ散らかされていた。

そしてその隣に、よく見慣れた彼のスニーカーが散らかっている。





不審に思いながら、リビングへと足を進める。

リビングに人影はなかったが、いつも開け放しているはずの寝室の扉がしまっている。

中から、とても嫌な予感がする声や音が聞こえる。

ビニール袋をその場に取り落とし、勇気が出ずに立ち竦む足を鼓舞しながら

なまえは思い切って寝室の扉を開いた。





裸の彼の下には、同じく裸の見知らぬ女性がいた。

2回目の昇進の際、自分へのご褒美として買った少し値のはるベッドの上で。

お気に入りの肌触りの良いシーツは、二人の下で今にもずり落ちそうに乱れていた。





あぁ、やられた。





一瞬でことを理解したなまえは、女の叫び声も彼の呼び止める声も無視して

バッグだけを掴みあげると一目散に玄関へと走った。







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