KISSING




ムスクの匂いがキツいのはいつものことだ。

どうしてこうもデパートの化粧品売り場というのは年中同じ匂いがするのだろう。

年代がどれだけ変わっても変わらないこの香り。

白っぽいフロアと、高級そうなボトルのポスター。

日本中どこへ行っても、デパートの1階は時が止まったようだ。



「今日は化粧水が欲しいの。もうなくなりそうで。」



土曜日は人出が多く、建物に吸い込まれる人がエスカレーターで上へ下へと散っていく。

なまえは隣で歩く遥に微笑みかけた。



今日は桐生と共に沖縄から神室町へやってきた遥とお出かけ。

東城会のことで予定があるらしく、遥を預けておく先になまえの名が挙がるのは

もはや定番の流れになってしまっていた。



「乳液はいいの?」

「うん。大事に使ってるから、まだあるよ。」



お洒落に疎い桐生の下で育った遥は、中学生になっても化粧品のひとつも持たなかった。

元々目のぱっちりした可愛らしい顔つきなだけに、不要かとも思ったが

高校に上がる少し前あたりから、基礎化粧品はと思い

なまえがよく行く店で化粧水や乳液等を買い与えている。



「ダメよ、たっぷり使わなくちゃ。」

「だってもったいないんだもん。」



沖縄では手に入りにくいメーカーというのもあってか、遥は買い与えたボトルを少しずつ使っているようだ。

しっかりしているというか、遠慮がちというか。


世の中の高校生はもっと横柄に生きているのに、と思う。



「いつもありがとうございます、みょうじ様。」



目当てのブースへ到着すると、制服に身を包んだ女性従業員が声をかけてきた。

いい加減何年も同じメーカーで買い物をしていると、顔を覚えられるのだろう。

カルテのようなものを持ち出して、以前購入した商品を調べてくれる。



「前に買った化粧水を2本、それから、同じシリーズの乳液も2本頂けますか?」



勧められるままに腰掛けたカウンターで、なまえは慣れたように従業員と話す。

遥はといえば、新商品の試供品が並べられたコーナーをキラキラした目で見つめている。

確かにパッケージはお洒落で可愛いが、美容液はまだ早いだろうか・・・



従業員が棚からいくつかの箱を取り出す。

2本ずつあれば、遥なら半年は持つだろう。

足りなくなっても恐らく連絡を寄越さないであろう彼女を見越し、多めに購入する。



「そちらのお嬢様の分ですね。みょうじ様はいかがいたしましょうか。」



店員に促されて、パンフレットに目を落とす。

もう何年も同じ化粧品を使っているが、新しいアイライナーができたとか。

以前使っていたものより書きやすいので、それを1本追加する。



「ねぇ、なまえお姉ちゃん! すごく綺麗な色!!」



そう言って隣から遥が指差したのは、これまた新商品のルージュだった。

ルージュというよりは殆どリップに近い、ほんのりとしたピンク色のそれは

普段なまえがつけるタイプのものではなかった。

どちらかというと、ベージュ系のグロスのような口紅を使用していたなまえに

遥が『絶対似合うよ!』と笑いかける。



「こちらも新商品なんですよ。今までみょうじ様がご購入されていたのとは違うラインですが・・・」



香りつきと言われたその口紅を鼻先に近づけてみると

ふんわりと甘い、バニラのような香りがした。


あまりに遥が気に入っているので、遥用と自分用に1本ずつ購入した。

お揃いだね!と遥は嬉しそうだが

口紅なんて買い与えて、後で桐生に叱られはしないだろうかと少し悩む。










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