「世話になったな、なまえ。」
夕方になり、遥を桐生に返す。
今回も遥は嬉しそうに小さな紙袋から大きな紙袋までを両手に下げている。
桐生が差し出そうとするお金を押し返し、私も楽しかったからいいよと告げるのは
毎回恒例の一連の流れになっていた。
妹のように甘えてくるし、磨きがいのある遥に色々とお洒落をさせるのが
楽しいというのは全く嘘ではない。
「いつも悪いな。ところで、なまえはこの後どうするんだ。」
3人で飯でも食いに行くか、と誘われる。
今回はいつものようにとんぼ返りせず、神室町で一泊していくらしい。
「だめだよ、おじさん!」
それまでホクホクと嬉しそうだった遥が突然口を挟む。
彼女の声はよく通ると、いつも感心してしまう。
「なまえお姉ちゃんはデートなんだから!」
遥に言われて赤面する。
桐生も桐生で驚いた顔をし、『そうか、すまなかったな。』なんて謝っているし。
今日一日一緒にいる中で、女子トークというものは恋愛抜きに語れない。
二人もよく知る男、真島吾郎と恋仲にあることは
桐生や遥だけでなく、近しい人間なら周知の事実であった。
久々に会った第一声が『なまえお姉ちゃん、真島のおじさんは元気?』だった遥も遥だが、
『そうか、だから兄さん、今日はスーツで・・・』と零す桐生も桐生だ。
タクシーの中で手を振る二人を見送り、なまえも次の予定について頭を巡らせる。
時刻は18:30、本当はシャワーを浴びてから行きたいところだが難しそうだ。
指定された場所まで、踵を返して向かうなまえのヒールの音は
先ほどよりも少し甲高い。
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