ABCならかるけど








「なまえ、ちょっと使いに行ってきておくれよ。」



弥生はいつも有無を言わさぬ口調で指示をする。

たまたま仕事の都合で神室町まで来たものだから


親戚の顔でも久々に見に寄ろうかと東城会本家へお邪魔したのが運の尽き。

少し早めのティータイムを設けてもらった、ものの数分後には

弥生の使いっぱしりを申し付けられる。



「・・・お使いですか?」

「あぁ、冴島の組ならなまえもわかるだろ。」



紫煙をすぅと吐き出しながら、既に話は進んでいるようだ。



「でも、仕事が・・・」

「何言ってるんだい、自営業のくせに。」



ふん、と鼻で笑う弥生。

なんでも父方の遠い親戚だとかで、両親と早くに別れてしまったなまえは

幼い頃から度々弥生の嫁ぎ先に世話になっていた。

優しい良妻賢母の女性なのだが、業界で染み付いた立居振る舞いに迫力がある。



弥生の言う通り、なまえの仕事には上司も居なければ就業時間も決まっていない。

フリーランスですと何度説明しても、弥生は覚える気がないようだ。

本業はWEB広告のデザインなのだが、職業柄PC機器の扱いには慣れている。

それがどうもアナログな東城会の面々からは、『パソコン屋さん』のような目で見られているようだ。

いつもキッチリ着込まれた高そうな着物の帯から、すっと封筒を取り出し

なまえの手元に滑り込ませる。

白く細い封筒は無理のない程度に盛り上がってはいるが

札で封筒が盛り上がるとは相当なものだろうとなまえはいつも思う。

10枚や20枚で、封筒はこんなに変形しない。



「小遣いだよ。また顔見せにおいで。」



なまえにとって唯一の血縁関係者である弥生は、本当になまえをよく気遣ってくれる。

そういえば弥生の夫であった3代目も、血の繋がらない親戚のなまえに良くしてくれた。

ただ、こういった土産を渡されることが解っているので

近寄りがたくなってしまっているということを、この人たちは知らない。



「・・・ありがとうございます。」



礼を良い、本家を後にする。

黒いスーツをぴしっと着込んだ男たちが、膝を割って頭を下げていく。

玄関の門を潜るまで、なまえの手が扉を開くことはなかった。

弥生から貰った小遣いで、冴島に手土産でも買っていこうと考えながら

なまえはぷらぷらと神室町の雑踏を歩いた。










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