ハッピー カチミング★




「だいちゃん、構ってくださいです。」

「無理ですー。」

「構ってくれないと死んじゃうです。」

「ご勝手にどーぞー。」


物凄く不貞腐れた顔で、事務椅子の背凭れに顎を乗せて

クルクルと回っているなまえを見たら、他人はどう思うだろう。



およそそんな奇行に走っているとは思えない容貌に、誰もが驚くだろう。

グレーのジャケットに秋らしい色合いの赤いスカート

白いブラウスの襟はふんわりとリボンになっていて、


磨かれたベージュと黒のツートンカラーのパンプスが足元でキラリと光る。



さながら『お天気お姉さん』のようなカチッとした洋服を着込んで

肩までの栗色の髪はサラサラのストレート、

品のいい桜色の唇は小さく、くりくりとした黒目がちの目は小動物のよう。



誰もが憧れるなまえ・THE・キレイなオネエサンは

こうして先ほどから小一時間ほど、南に絡み続けている。



「今日デートしよって、言ったじゃない。」

「承諾した覚えはないですー。」



クルクルと椅子を回転させる速度を早めながら、事務所の中を縦横無尽に駆け巡る。

そんなに回転して、目が回らないのだろうかと少し気にかかる。



もうすぐ終電もなくなる時間だ。


意外に朝型の真島組員は、とっくに各々の夜を楽しんでいる。

南はといえば、生真面目だが短気な性格のせいか

いつまで経っても部下に仕事を任せるということを知らない。

自分でやった方が早いだとか、後で怒られるのは自分だとかグチグチ言いながら

極道のくせに、いつも書類仕事の残業ばかりしている。



「だいちゃんのケチ。」

「ケチちゃうわ。」



相変わらず不貞腐れたなまえの声が、背後を左から右へ駆け抜けていった。

恐らくまだ事務椅子に座ったまま、猛スピードで事務所内をめぐっているのだろう。



なまえと出会ってから、かれこれもう数ヵ月になるだろうか。

組がケツモチをしているキャバクラへ、いつものようにみかじめを集金に向かった帰り、

よくあるようにチンピラに絡まれているなまえを見つけた。

その日はなんだか機嫌が良かったこともあって、よっしゃ善行やとばかりに

なんの予告もなくチンピラの横っ面を殴り飛ばし、撃退した。



絡まれた女は災難だったなとばかりにチラリと視線を向けると

その女は先ほどまで見せていた怯えた顔などどこへやら

頬を赤らめ、潤んだ瞳でじっと南を見つめていた。

そしてやっと開いた口から放たれたのは、感謝の言葉ではなく



『好きです。』



それからずっと、南はこうしてなまえに付きまとわれている。









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