ットル








ただ街を歩いていただけなのに、絡んできた身の程知らずなチンピラを

10分足らずで返討にして退治した。

この体格に喧嘩を売ってくる、その度胸は買ってやりたいが

最後の一人に、その辺にあった大型二輪を落としてやると少し嫌な音がして

足を引きずりながら退散していった。

折れただろうか、折れただろうなと思いながらさて道を急ごうと足を踏み出す冴島の肩を

ちょいちょい、と細い指が呼び止めた。



「ちょっと、どこ行くのお兄さん。」

「あ?」



ぱらぱらと解散していく野次馬の中で振り返ると、トレンチコートにスーツ姿の

如何にも会社勤めらしい女が立っていた。

小顔の、気の強そうな目をしていた。



「バイク、それ、私の。」



冴島の肩をつついた指がそのまま、アスファルトの上で大破しているバイクだった物に向けられた。

少し血が付いている、きっとあのチンピラのどれかの血だろう。



「ほんまか、すまん。」



今までいくら破壊したところで持ち主がその場に居合わせたこと等なかったけれど

これまでのバイクたちにも各々の持ち主が居たことだろう。

初めて彼等の事を思い、少し申し訳ない気持ちになって冴島は目の前の女に謝罪をした。



「良いけどね、保険入ってるし。」



苦笑いでケラケラ笑う女は、この街にはあまり見られないあっけらかんとした笑い方で

片手に持ったヘルメットを手持無沙汰に振り回した。



「弁償するわ。金で済むかわかれへんけど。」

「良いって、返ってややこしいし。」



どうせ警察沙汰にしたくない人でしょうと女は笑いながら続けた。

新手のタカリでも警察でもなさそうな女の正体を掴みかねながら、冴島がまた謝罪をすると

バイクの残骸を適当に足で路肩に寄せながら女は笑った。



「謝んなくて良いよ。お兄さんも災難だったね。」



確かに吹っかけてきたのは相手だが、別に大型二輪でフィニッシュしなくても

拳ひとつで何とかなったのは事実な訳で。

テキパキと保険会社に電話をする女の隣で、冴島がミラーの破片を蹴ると

彼女は破損原因を、わからないと答えていた。



「タクシー代くらい、出させぇ。」



通話を終えた女がバイクのキーをポケットからバッグに移すのを見ながら冴島が申し出る。

女はまだ居たのかとでも言いたげな顔で振り返り、夜空を仰いで少し何かを考えた。



「いや、良いよ。どっかで始発まで潰していくし。」



時刻はとうに終電を過ぎた深夜、少し草臥れたスーツからは疲労の気配がしていた。

最初はスーツ姿の女が二輪かと訝しんだけれど、電話口での彼女のやり取りを聞くともなしに聞いて居る内に

きっと終電を過ぎることを予想して、バイク通勤だったのだろうと合点が行った。



「危ないやろ、女一人で。」



やはりタクシーで帰らせるべきだと判断し、冴島が財布に手を伸ばすのを

女は相変わらずあっけらかんと笑いながら手で制した。



「じゃあお兄さん付きあってよ。それなら危なくなさそうでしょ。」

「なんでやねん。」



へらへらと笑う女に一応ツッコミをいれたものの、妹と近いであろう年齢の女が一人で呑むにはこの街は危な過ぎる。

元はと云えば責任はこちらにあるのだし、奢ってやれば自分の気も済むだろう。

冴島が折れたのを見た女は、意外そうに目を丸くしたあと

なまえ、よろしく。と短い自己紹介をした。










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