メイビー
カレンダー通りの生活が懐かしい。
火曜日の夕方に目を醒ますと、着信が6件も入っていた。
内2件はクライアントから、内3件は同じ男から、内1件は真島から。
クライアントの残した留守電を聞きながら、コーヒーを飲んだ。
シャワーを浴びて適当に身支度を整えて、ぼぅっと化粧をしながら今し方聞いたクライアントからの追加要望の打開案を考えて
肩に携帯を挟みながら車に乗りこんだ。
できない、とは決して答えないなまえは、クライアントが諦めざるを得ない追加金額を提示しながら
お力になれず申し訳ないと、口先だけで適当に謝罪した。
大通りへ至る国道を右折しながら、この先は混むだろうかと溜息を吐いて
着信履歴から真島へ電話を掛け直した。
『今起きたんか、不摂生なやっちゃなぁ。』
真島からの要件は大概決まっている。
男の口から決まった言葉しか出ないのは、子供も大人も
愛人も正妻も恋人も商売も大して変わらない。
『今どこおんねん。』
「もうすぐ着く。」
2つ目の信号をまっすぐ行って、もうそろそろ繁華街が近くなっている。
開店前の慌ただしい呑み屋街の交差点で真島を拾うのは、もう慣れてしまった。
それ以上言葉を繋げず切れた携帯を、左手のドリンクホルダーへ放り投げると
遠くに目的地が見えて来た。
「飯は、食うたんか。」
真島が助手席のドアを閉めるなり、車を出した。
今日一日何も食べてないけれど、寝起きであまり胃が働いていない。
煙草とコーヒーで満たされた体内はきっと炭水化物や蛋白質を欲しているけれど
何かを摂取する行為がとても面倒で、なまえは首を縦に振った。
「食べた。」
「さよか。ほな、ええな。」
何が良いのか知らないけれど、真島は納得したように進行方向を見つめた。
カーナビを長いこと使用していない、この街以外に行先なんて無い。
お決まりのようにホテルに着くなり、特に会話もなく行為を済ませた。
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