乱れてしまった髪はそのままに、二人揃って煙草を吸う。

事後にニコチンが美味く感じる快感を知らない嫌煙家を少し哀れに思う。

緩慢な自殺を享受する程には、人生とは永くつまらない。



「…ずぅっと鳴っとるで、携帯。」



バッグの中から少しはみ出した携帯は、最中何度も振動した。

真島の下で揺れながらチラリと見遣る度、彼は苛ついたようになまえを突き上げた。



「うん。」



着信の画面に見える名前は今朝と同じ、3件の連絡を寄越した男だった。

昔の上司に無理やりセッティングされた飲み会で知りあった、

半ばビジネスライクに、半ば暇潰しに寝た男の、次のデートの誘いだった。



「浮気モンやなぁ…。」



ベッドに腹這いで煙草を蒸かすなまえが顔を向けても、真島の背中しか見えない。

背中の般若が恐ろしい顔で睨んでいたけれど、その刺青とは裏腹に

真島の声は少し笑っているようでもあった。



「真島さんだけよ。」



全く以て真黒な真実を紫煙に乗せて呟く。

なまえの視線はとうに般若から、間接照明に浮かぶ副流煙に移されていた。



「嘘はあかんで、嘘は。」



真島が雑に灰皿で潰した吸殻からはまだ煙が立ち上っている。

気にする素振りもなくなまえの背中に触れた真島の指は冷たくて、行為の匂いがした。

一糸纏わぬなまえの肩甲骨から下半身へ、するする掌が流れていくのを無視して

なまえはまたひとつ大きく煙草を吸った。



「ホントの事知って、気分が良い訳無いじゃない。」



やる気なく呟くと、真島の指が2度目を急かすようになまえの身体を這った。

灰皿に適当に煙草を押し付けたなまえの煙草も、もしかしたら

真島同様鎮火されていなかったかも知れない。

どうでも良いことだ。

いとも簡単に仰向けにされたなまえの目が、組み敷く真島の隻眼をぼんやり見つめた。

探るようでも、悲しそうでも、楽しそうでも、無表情でもある。

この男の本当を読むことは、誰にだってできやしない。



「私のこと、愛してる?」



鼻で笑ってふざけて問うと、にやりと笑った真島が情事へ臨む。

バッグの中でまた携帯が震えている。

またあの男だろうか、それとも仕事か、友人からの呑みの誘いだろうか。

どうでも良いことだ。



「嘘はつけへん主義やねん。」



それ以上何も言わなかった真島は、確かに嘘も言っていない。








メイビー、敢えて罪を犯すこともるまいに






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