夕暮れ時になると提灯が点いて、大門通りはやおら騒がしい。

赤格子の内から外を見遣れば、どいつもこいつも浮ついた面で鼻の下を伸ばし

女たちを馬鹿にして見下した目をしながら、其の奥は気持ち悪い程ギラついて居る。



「調子はどうや、不景気な面ァしよってからに。」



大袈裟な歩幅と良く響く大声で格子の外から声を掛けられ見れば

これまた見慣れた反吐が出そうな正義感を振りかざした男が半笑いで此方を見て居た。



「如何もこうも、何時も通りでおざんす。」



フン、と鼻を鳴らして格子へ近づけば素見は益々騒がしく成った。

嗚呼花形が素見に姿を見せてやるなんて、また女将に怒られる。



「ほぉか。相変わらず壬生狼の連中に弄り回されとんのか。」

「サァ、如何ですやろ。」



逐一癇に障る物言いをする、自分勝手な正義感に満ち満ちた佐々木と云う男は

此の処なまえの楼にしばしば新撰組の一味が上がるとの噂を聞きつけては

見回りと称してこの様に格子の外からちょっかいをかけて来る。

其の癖一度も楼に上がった事はない、ケチな男だ。



「奴ら匿っとったら、お前ら一括りでお縄モンやからな。」



脅し文句に格子内の女郎が少々怯えた空気を晒す。

もう少しで年季が明ける女郎等は、泳ぐ目玉を隠し切れて居ない。

小さく溜息を吐いて佐々木の前に正座をすると、なまえはピンと背筋を伸ばした。



「旦那みたいのんにうろつかれちゃあ、こっちも上がったりになっちまう。」



にやりと笑う佐々木の口元は、何時か田舎で見た猪が兎を食むのに良く似て居た。

諸行無常の香りに背中がぞくりと泡立つ。



「そりゃ、匿っとるっちゅうことかいな。」

「此処に来る旦那方は、然うで無くとも後暗いもんさ。」



袷の隙間から素足をにょろりと出して、格子の外の佐々木の鼻先へ

伸ばした爪先を突きつけた。

もう少しで見えそうな着物の奥を、周りの素見が躍起になって覗き込もうとして居る。



「其れより旦那。遊んでってくれりゃあ、良い思いのひとつでも。」



佐々木の目先でくるりと輪を書いて見せると、一瞬非常に不機嫌然うな顔をした後

また猪の眼で嫌味ったらしく笑った。



「然う云うんは、其処い等の成金にでもやったり。」



此れ以上用は無いとでも言いたげに、佐々木は羽織を翻して大門通りに消えて行った。

続きを所望する素見を無視して、なまえの定位置の高座布団へ戻って座った。

襖がチラリと開いて女将が睨んで居るのが見えたので

小さく舌打ちをして、佐々木の消えた方角を遠く見つめた。













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