これからもう恋をしなければの続編です。
世界観をぶっ壊しているので、大丈夫な方のみどうぞ。










おーみのおいたんとぜんりょくであわせになるよ A











『お世話になります、先日頂いたサンプルの件で質問がありますので、折返しお電話ください。』

『お疲れ様です。月曜の会議の件、ちょっとご相談があります。折返し待ってます。』

『お疲れ。今日は直帰なのか?今年の忘年会の下見に行かないか?部長でした。』



合間合間に電子音を挟みながら、留守電が再生される。

ハンズフリーにして紫煙を吐きだしながら、ひとつひとつの対応を考えた。

明日は土曜だし、クライアントの件はなるべく早く処理しよう。

とりあえず部長は後回しだ。



煙草をもみ消して、冷蔵庫からミネラルウォーターを取りだして開封する。

携帯を片手にサンプルの質問について考えていると

着信を知らせるバイブに反射的に反応してしまった。



『おう、ワシや、ワシ。』



仕事モードの時に仕事以外のことを考えられないのは、昔からの悪い癖だ。

何度も聞いた留守電の声が、残されたメッセージ以外の言葉を喋ったのは久々だ。



「渡瀬さん…」

『なんや掛け直してけぇへんから心配したで。まだ仕事中か。』



はぁ、まぁ、と曖昧に返答をしていると、電話の向こうから街の喧噪が聞こえた。

時折クラクションが鳴っている、この辺りでも一層喧しいあの交差点だろうか。



『今ドコや、迎えに行ったろ。』

「いや、家なんで大丈夫です。」

『そうか、ちょうどええわ、もう着くで。』



そう言って電話はブツリと切れた。

一瞬フリーズした頭をフル稼働させて、とりあえず出しっぱなしだったコートを片付けた。

もしあの交差点に居るなら、アクセサリーの散らばったドレッサーは片付ける時間がない。

寝室の扉は閉めて、意味もなくローテーブルの上のリモコンを平行に並べてみたりした。

開け放した窓に手でせっせと紫煙を送り出しながら

途中でスプレー型消臭剤の存在に気づいた頃に、インターホンが鳴った。



「なんや、慌ただしいのぉ。」



慌てて髪を撫でつけて玄関へ出迎えたなまえに、開口一番渡瀬が笑った。

男でも連れ込んどったんかと茶化しながら、当然の様に家に上がって

当たり前のようにソファに座った。



「大したお構いもできませんが…」

「なんや、別にええって。」



突然すまんかったな、と表面的な謝罪をしながら渡瀬がネクタイを解いた。

初回に拒まれたことで家に彼が居ることなど想像だにできなかったけれど

いざその時になれば、渡瀬はあくまで自然にそこに居た。



「なんで家、知ってるんですか。」

「あぁ?なんでって、そら知ってるやろ。」



知っているのはお互いの名前や肩書、セックスの癖くらいのもので

住所を教えた覚えも、家まで送ってもらった覚えもない。

もう少し踏み込んで質問しようとしたけれど、そういえば彼はあっちの世界の人だと思い出して

それ以上考えないようにした。



「しかしまぁ、なんや、素っ気ない家やな。」



渡瀬が部屋をぐるりと見まわしながら、失礼な感想を述べた。

なまえの家にはあまり物がない。

インテリアにこだわる方でもないし、そもそも掃除が面倒なので必要最低限の家具しか置かない。

もし空き巣がなまえの家に入ったとしたら、さぞ残念がるだろう。



「これやったら2時間掛からんか、まぁ半日あったら十分やろ。」



コーヒーでも出そうか、あぁでも時間的にお酒かなと思いながら

どちらが良いか聞こうとする間に、渡瀬が一方的に話を進めている。

勝手に納得する渡瀬がどこかへ電話をしようとするのを遮って、とりあえず状況を呑み込もうと努める。



「ちょっと待って、何の話ですか。」

「何って、引っ越しの話やろ。」

「誰がドコに引っ越すんですか。」

「お前が、ウチに。」



要領を得ない問答の間にも、渡瀬の指は携帯を操作しようとしているので

勢い小さな端末を取りあげた。

ベッドの上以外で初めて活発な所を見せてしまった、なまえのスライディングは意外と綺麗に決まった。



「話が見えないんですけど。」

「跡目継いだァ言うたやろ。」



知っているけどあなたから聞いた訳ではない。

そう言いたいのをぐっと抑えて、呆れたような渡瀬が携帯を返すよう催促する手を

イヤイヤと首を振って説明を促した。



「お前、姐さんがこないなトコ一人暮らしってどないやねん。」

「姐さんってどういう事よ。」

「アレや、岩下志麻みたいなヤツや。」



なまえの頭に、懐かしいテーマソングが流れた。

跳ねるようなトランペットの音は、確か違う、アレは仁義なき戦いか何かだった。

あれ、極妻の主題歌ってどんなんだったっけ。



ほなそういうことで、と去って行った渡瀬をぽかんと見送った次の朝、

なまえの荷物を大事そうに運んで行く舎弟を、同じくぽかんと見つめた。







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