巧言令色の続編です。
世界観をぶっ壊しているので、大丈夫な方のみどうぞ。
おーみのおいたんとぜんりょくでしあわせになるよ @
音楽を流す気にもなれなくて、静まり返った部屋に
玄関の重たい扉が開いた音が酷く大きく聞こえた。
驚いて肩を跳ね上げたなまえの耳に聞こえたのは、聞き慣れた佐川の間延びした声だった。
「いやぁ遅くなった。赤飯はやっぱこんな時間じゃ売ってなかったわ。」
部下に頼んで、明日の朝には届くよう手配したと言いながら
出て行く時には持っていなかった、重そうなビニール袋をリビングに置いた。
「とりあえず、これ、祝杯。ノンアルコールなら飲めんだろ。」
ソファの隣のローテーブルに、ビニール袋の中身を取りだしていく。
ノンアルコールの表示が書かれた缶ビール。
身体を冷やしてはいけないらしいと、もこもこの靴下。
気が早いかと言いながら、『出生時の手続きパーフェクトブック』と書かれた書籍と
有名な赤ちゃんグッズの月刊雑誌。
「え、あの、ちょ」
「妊娠中はすっぱいモン食いたくなるらしいからな、これでも食っとけ。」
スーパーで売っているようなタッパーの梅干しを、得意げに差し出す佐川に
まさか嘘でしたとは言い辛い。
「あ、煙草吸ったのか。まぁ急に禁煙っつーのも無理だよな。」
カップの中の吸殻を認めると、佐川は内ポケットからパイポを取り出して
状況に戸惑っているなまえの何か言いたげな口の中に突っ込んだ。
「俺もお前の前では止めるからよ、とりあえずはそれで我慢しとけ。」
しかし灰皿とコレ間違えるか、妊娠中はぼーっとするってホントなんだな。なんて言いながら中身を片付ける佐川から
そういえば煙草の匂いがしないことに気づいた。
代わりにするのは、なんだか知っている匂い。
あぁ、布製品の消臭芳香剤の匂いだ。
「名前も考えねぇとな、男だったら、まぁ、アレだな。」
女だったらなまえの名前から紐付けようと、ご満悦にしている。
さっきまで別れようと思っていたけれど、今度は逆に
凄く申し訳なくなってきた。
「あのさ・・・」
「ん?」
テレビに映る女性タレントを指さして、コイツの名前はダメだ等と呟く佐川に
とりあえず状況を呑み込めたなまえが、口を開いた。
「妊娠、嘘なんだけど…」
「はぁ?」
ソファの背もたれでぐるりとなまえを仰ぎ見る、佐川は暴れるだろうか。
殴ったり蹴ったりして、怒って部屋を出て行くのだろうか。
すっと動いた佐川の腕が、なまえを掴んで殴るかと覚悟した矢先
彼はそのまま顎を指で挟んで、少しだけ考え事をした様だった。
「別に、今から作りゃあ変わんねぇだろ。」
「はぁ?」
よし、と気合を入れた掛け声と共に、佐川がソファから起き上がる。
困惑しているなまえの腰を掴んで、寝室に連行しようとしている。
「ちょ、待って、いや、あのさ」
「あぁ?善は急げって、知らねぇのかお前。」
久々に佐川の上機嫌な顔を見た。
あぁなんだ、別れる理由も別れない理由もないけれど
一緒に居る理由はあったのだ。
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