アドバイスをるよ








よく晴れた気持ちのいい春の休日。

そよ風が髪を撫でるこんな日には、道行く人々が随分軽装になっていて

たまにすれ違う仲の良さそうなカップルが、アイスを食べようなんて囁き合っている。

ベランダの手すりにもたれて、そんな様子を眼下に臨みながら

なまえは細く長く、そして重く煙草の煙を吐き出した。



「やっぱりここは定番の居酒屋の方が…」

「いや、洒落た内装の隠れ家的イタリアンなんてどうだ…」

「もういっそハナからホテルとか、話が早い…」



開け放した窓からリビングで話す声が聞こえる。

なまえはもう一度肺いっぱいに紫煙を吸い込んで、晴れた空へ向けてぷかりと吐いた。



「何が作戦会議よ。たかが合コン如きで。」



煙草を吸い終えたなまえがリビングに顔を出すと、3人は顔を突き合わせてダイニングテーブルを独占していた。

久々に仕事に追われることのない休日。

きれいに掃除を終えた頃、ちょっと場所を貸してくれと言いながら

いつもの3人がどかどかと家に乗り込んできた。



「たかがじゃねぇ。人生初の合コンだ。」



大吾の目がキラキラと光っていた。

ずっとお坊ちゃん育ち、そして高校を中退してからは裏社会で揉まれながら生きてきた彼にとって

普通の人間が普通に通り過ぎる人生のイベントを、30過ぎまで経験してこなかった。

そんな大吾がぽつりと、合コンってどんなだろうなと呟いたのを耳敏く聞きつけた峯が

その日の内に片瀬にセッティングを要請。

せっかくなので品田も誘って、と3:3での合コンを次の週末に控えているらしかった。



「合コンなんて楽しく呑んで終わりでしょう。」

「わかってねぇ。なまえは何もわかってねぇ。」



峯が珍しく神妙な顔でなまえを叱りつけた。

それが大吾への建前なのか、それとも峯が本気で片瀬の友人を狙っているのかはわからなかった。



「お持ち帰りというロマン、そこに男の優劣が存在するのだよ。」

「美学だよ、美学。」



大吾と品田が口々に投げかけてくるのを、はいはいと受け流しながら

なまえはコーヒーのお代わりを注いだ。

映画を観ようとテレビを点けても、なまえも会議に参加しろと引きずり込まれるので

本格的に暇になっていた。



「お持ち帰りも何も、女の子に気に入られなきゃ。まずは。」

「だからそれをなまえに聞きに来てんじゃねぇか。」



何言ってんだお前、と続ける峯を殴り倒したくなった。

休日にずけずけと人の家に入り込んでアドバイザー扱いとは良い度胸だ。

しかしまぁ、今に始まったことでもない。

なまえは呆れ果てた溜息をついて、峯が催促するダイニングの椅子に腰かけた。



「なぁ、なまえ。合コンって何するんだ。」

「何って、楽しくお喋りとかじゃないの。」

「それは無理だ。」



なまえのアドバイスを峯が一刀両断する。

品田は笑いを堪えていた。



「あ、でも、例えばゲームとかするんじゃないかな。」



吹き出しそうになるのをこらえながら、品田が助け舟を出した。

庶民派代表の品田も、過去に合コンの経験はないらしかった。

学生時代は部活に没頭し、社会人になってからは呑みに行く金もなかったという彼にしてみれば

当たり前のことのように思えた。



「ゲームってなんだ。桃鉄か。」

「桃鉄はしないでしょうよ。」



峯の桃鉄ブームは未だ冷めやらないらしい。

それまでゲームに興味のなかった彼は桃鉄に目覚めてから何かと業界の知識を仕入れ、

ハドソンが買収されたことを知った直後、なまえを呼び出し呑みに誘っては

どうすればさくま氏がもう一度あの神ゲーを作ってくれるのかと本気でプレゼンされた。



「王様ゲームじゃない、合コンって言ったら。」

「なんだそれ。黒ひげ危機一髪的なやつか。」



まるで頓珍漢な大吾に品田が簡単に王様ゲームの説明をした。

各人が番号を持ち、王様はなんでも命令できるというざっくりした説明に大吾が納得したかは謎だったけれど

なんでも、というフレーズに彼の眼が輝いたのを見て

このゲームを考えたのは絶対男だな、と悟りながらなまえはコーヒーを口に運んだ。











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