街で遊ぶよ。









夜景を見ながらお酒を呑むのは好き。

海の近い都市の洗練された近代的な建物の白さも、レトロな雰囲気の赤煉瓦倉庫も好き。

横浜の街は、恋人とデートをするのには打ってつけだと思う。

少なくとも借金がなくて、少なくとも堅気で

できれば白いシャツとジーンズが似合う、歯の白い、趣味はサッカーです。みたいな

そんな男と出会う確立なんて、宝くじが当たるより低い気がしてならない。



「さっぶ。」

「さっぶ。」



日も暮れかけた頃になって、思い立って急に車を走らせた。

何のことはない、ダラダラ過ごして居たリビングのテレビで不意に流れた

小籠包が美味しそうだっただけだ。



「なまえが行きたいっつたんじゃねぇか。我慢しろよ。」

「私じゃないよ、辰雄だよ。」

「俺じゃないよ、峯君だよ。」

「俺な訳ねぇだろう。」



高速に乗って1時間も掛からない内に中華街側の駐車場に着いた。

東京から少ししか離れていないのに、横浜は都市ごとテーマパークのようだ。

小籠包食べたい、となまえがぽつりと呟いたのに

便乗して騒ぎ立てたのは辰雄、上着を羽織ったのは大吾、運転したのは峯。

みんな食べたかったんじゃない。



「もう、早いトコ小籠包食べて帰ろ。」

「ちょっと待て、アレなんだ。」



歩きながらスマホを弄って目的の店舗を探すなまえの肘を掴んで

大吾が道端の店を指さした。

寒そうに身を縮めながら歩く品田の赤い鼻先が、明るい店先に向けられた。



「チャイナドレスだね、写真撮れるみたい。」

「すげぇ、撮ろう、撮ろう。」



やたらテンションが高い大吾に揺すられてスマホの液晶が揺れる。

出掛けるとなるとテンションの上がるこの男は、30にもなって観光地が非常に珍しいらしかった。

福岡で行方不明になって困ったと以前桐生に聞いていたけれど

もしかしたら仕事以外の目的もあったのかもしれない。

迷子とか。



「一緒に撮るなら良いよ。」



ジャケットの襟元が寒くて、首を縮めたままなまえが答えた。

嬉しそうな大吾がはしゃぐ背中を見つめながら、峯が訝し気になまえを見下ろす。



「嫌がるだろうと思った。」

「まぁね。でもさ、一緒に撮るなら良いかなって。」



品田と大吾が浮足立って店先へ向かう様を見ていると、ちょっと笑いがこみ上げてきた。

興味なさげに相変わらずスマホの液晶を弄って居るなまえが目的の店舗を見つけた。

あぁ、そんなに離れていない。



「すげぇ、何これ強そう。」

「キョンシーっぽい、キョンシー。」



表の看板を指さして笑う大吾に向かって不意に顔を上げる。

峯は心底嫌そうな顔をしていた。



「何言ってんの、あんたらもチャイナドレスに決まってんじゃん。」



来来キョンシーズのテーマを口遊んでいた二人の手がぴたっと止まった。

選曲のセンスに年齢を感じながら、予定調和の対応に

なまえはさっさと目的の店舗へ向けて歩き出していた。












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