目的の店へは、なかなか辿り着かなかった。

少し進む度、大吾があれは何だと嬉しそうにするのを窘める気にもなれず

良い匂いがする度品田が目を輝かせるのを、これまた窘める気にもなれず

いくつかの点心を食みながら、行程は遅々として進まなかった。



「…おい、なまえ、あれはどういうことだ。」

「何、峯くんまで…」



日暮れとは言え人通りも多い中華街、逸れないよう大吾と品田の腕を掴みながら歩いて居ると

峯がとんとんとなまえの肩を叩いた。

目を遣ると、多くの観光客の隙間から見覚えのあるジャケットが見えた。



「…まじ「逃げるぞなまえ!!!」



掴んで居たはずの腕を掴まれながら大吾が掛けだした時には遅かった。

40過ぎても身体的な衰えを微塵も感じさせない真島の足は速かった。



「何してんねん、おまえら。こんなとこで。」

「早ッ!」

「怖ッ!」



あの街から出ないとばかり思っていた真島は、当たり前のように横浜にも出没した。

大吾と峯が居ずまいを正すのにつられて、なまえと品田もなんとなく固まった。



「なまえちゃんもおんのか。なんやお前ら、いっつもツルみよってからに。」



真島の異様な風貌にもたじろがない中華街の観光客は、各々が観光に没頭している。

煌びやかな異国風の建物や看板の中にあれば、真島はそんなに浮いて居ないようにも見えた。



「真島さんこそ、珍しいですね。」



大吾の声が若干震えている。

良かった、さっきチャイナドレスを無理やり着せられて居たら

また真島の携帯の画像フォルダに永久保存版が増えてしまうところだった。



「何言うてんねん、住民票こっちやしな。」



そうだ、確か真島の出身は横浜だった。

人混み等嫌いそうな真島が中華街をうろつくことにも驚いたけれど

彼の口から住民票なんていうお堅い言葉が飛び出すことに、もっと驚いた。



「何しに来てん、お前ら。」

「小籠包食べに来たんです。」



なまえの肩を抱いて歩く真島を、立場的に誰も追い返すことができない。

まぁ大吾以外には別に害のある人じゃないし、放っておこうと思いながら

なまえは静かに肩に乗せられた真島の手を払った。



「よっしゃ、おっちゃんがエエもん買うたろ。」

「話聞いてました?」



威勢良く真島が入って行った店の看板にはでかでかと、豚まんと記してある。

ご丁寧に豚の絵が書いてある、小籠包という単語は聞こえて居なかったのだろうか。

とはいえ蒸された豚まんの良い匂いがするし

奢りならば仕方ない、と一向は真島に連れて店へ入っていった。












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