をするよ。








今夜は帰らないでと伝えると、ちょっと怒られた。

どうも私は女としての自覚が足りないとのことだ。

スッピンは当然、酔って吐いた姿も見せているのに何を言っているのだろう。



「いや、ちょっと、今日は一人にしないで…」

「なんだ、生理前か。」



峯はオブラートに包むということを知らないらしい。

生理前ではないけど、と前置きをして事情を説明した。



「あのさ、これ見て欲しいんだけど。」



ベランダへ出る大きな窓とは違う、小さな小窓のカーテンを開けた。

そこには白い跡がべったりとついている。



「うわ、なにこれ。」

「おい、手形あんぞ、手形。」



1週間程前からつき始めた白い跡は、蛞蝓が這ったようなぬるりとした太い線と

いくつかの手形がついている。



「不法侵入とか、そういうやつ?」

「いや、ここ9階だし。足場ないし。」



そう、なまえの9階にある部屋の小窓の外は断崖絶壁。

ベランダでもない窓の下は足をかけられそうな配管も煉瓦も見当たらなかった。



「おばk」

「ちょ、言わないで峯くん。お願いだから。」



何かをガラスに擦りつける音とバンバンと叩く音が煩くて目を醒ました或る夜。

それ以来、毎晩の騒音と、拭いても拭いてもついている謎の白い跡に悩まされている。



「こういうの全然信じてなかったんだけどさぁ…」

「まぁ、目の当たりにしちまうとなぁ…」



酒なしでは眠れないようになってしまった休前日の夜に、いつものメンバーを呼び出した。

いつもよりずっとハイペースで酒を呷るなまえの理由をやっと理解してくれた大吾が

憐れむようにポンポンと肩を叩いた。



「お祓いとかすればいいじゃん。」

「人為的って可能性も捨てきれないもん。」



誰かに恨まれるような覚えはないけれど、恨みを買わない程誰にでも優しい訳では無い。

ストーカーがつく程の美人じゃないとは思うけど、昨今のストーカーは何を考えて居るかよくわからない。

まぁストーカーが何を考えて居るかなんて、知りたくもないけど。



「なので、今夜は帰しません。」

「決定事項かよ。」



そろそろ例の音がし始める午前0時。

休前日の酒盛りはまだまだ序の口だ。

渋る峯を皆で説得して、なまえはこの日の為にたんまりと仕入れた酒をめいっぱい振る舞った。











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