酒の強さでいうと、実はなまえが一番強い。

それでもビールから始まって、ワイン、ウィスキー、日本酒を片っ端から空けていくと

姿の見えない幽霊に怯えるというよりは、怖いもの見たさの方が勝ってきた。

気持ち悪いので閉め切っていたカーテンを開けると

新たに手形がひとつ、ついていた。



「うわ、増えてる。」

「ちょ、怖、マジで、ちょ、無理。」



徳利を片手になまえが実況すると、大吾が本気で怯え出した。

仕方がないので峯に熱燗をお願いし、品田となまえで大吾を挟んでやる。

峯が新しい熱燗を手にリビングへ戻って来ると、

例の窓を叩く音と、きゅるきゅるとガラスの上を何かが滑る音が喧しく響いていた。



「神…ッ!」

「缶?」



危うく徳利を落としそうになったものの、驚くべき身体能力で体勢を立て直した。

品田の次に運動神経が良いのは、間違いなく彼だ。

窓の外を見て驚いた顔の峯を、大吾となまえが凝視している間に

窓を叩く音は一層大きくなった。



『おう峯ェ!貴様こんな所で何しとんじゃワレェ!』

「なまえ、安心しろ。人間じゃねぇ。」



相変わらず小窓を叩く音は大きく響いている。

時折きゅるきゅる鳴る音に連れて、蛞蝓が這った跡が新たについていた。



「おい、峯、どうなってんだ。」

「気にすることはありません。」

「え、人間じゃなかったらなんなの。」



怯える彼等を尻目に、峯は再び座って酒を呑み始めた。

その間にも侵入を試みんと神田が額を擦りつける度に、白く太い跡が伸びていた。



『峯ェ!ワシぁやましい気持ちちゃうねん。そこのネェちゃんがあんまり肩凝ってそうやったから…』

『おう聞いてんのかワレェ!見えてんねやろ!』

『そんなことしてええのか、コラ。お前いっぺん呪ったろかぁ!』



バンバンと際限なく鳴り続ける騒音に、大吾となまえが峯に何とかしろと目線を向ける。

品田は黙々とツマミを消化していた。



「…ちょっと電話してきます。」

「は?え、は?」



溜息をつきながら携帯片手に出て行く峯を、呆気に取られながら見送る。

その間にも白い蛞蝓跡は増え続けていたけれど

品田がぽつりと、汚ねぇと呟いた意味は解らなかった。











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