を預かるよ。






なまえから連絡が来たのは朝一だった。

休日は昼、ともすると夕方まで寝ていることもある女なのに

10時前に連絡が来るなんて、何かの事件に巻き込まれたのかと思った。



「名前、なんていうんだ。」

「チェルシーだって。」



連絡が来てなまえの家に飛んで行った。

途中で品田と峯にも電話を入れたところ、すぐ行くと即決で返事があった。

峯に至っては、午後の仕事を全部キャンセルして向かうそうだ。

見慣れたなまえのリビングはいつも以上に広々と片付けられていて、

細かなインテリアは全てクローゼットに収納されていた。

他の部屋との行き来を制限したリビングのソファに、例の彼女は居た。



「…可愛い。」

「でしょう。」



茶色と白の短毛がふわふわした、可愛らしい子猫の目の前に

ピンクのねこじゃらしを、大吾が一心不乱にちらつかせる。

時折小さい声でにゃあと鳴いたりしながら、子猫はねこじゃらしを追っている。



「まだ3ヶ月経ってないんだって。」

「生まれたてじゃねぇか。」



なまえの友人の飼っている猫だそうなのだが、どうしても急な仕事が入ったとかで

先日の夕方から今日の夜まで、という約束で

子猫を預かることになったとメールが来た時は正直スルーしようかと思った。

しかしながら、添付された写真の可愛らしさに目を奪われ

1ヶ月ぶりの休日にも関わらず、こうしてなまえの部屋まで飛んできたという訳だ。



「可愛いなぁ…おいミケ、可愛いな。」

「チェルシーだってば。」



厳つい髭を生やした強面の男が、子猫を愛でる姿はとてもシュールだった。

極道の世界も子猫の可愛さを活用して、少しは平和になれば良いのになんて思っていると

インターホンが鳴って品田が飛び込んできた。



「うわ、ちっちゃ!」



ジャケットも脱がずにリビングへ突入すると、子猫は品田の大声に少し驚いた様だったが

なまえが渡した子猫用のおやつを大きな掌に乗せて呼びかけると

嬉しそうに子猫は品田の掌からおやつを食べた。



「かぁわいいねぇ、この子。」

「良かったな、ミケ。」

「チェルシーだって。」

「美味しかった?タマ。」

「チェルシーだってば。」



おやつを貰った為か、子猫は一気に品田に懐いた。

ごろんとソファに仰向けに転がる品田の胸の上にぴょこんと飛び乗ると

楽しそうに耳をぴくぴくと動かす様が愛らしい。



「あ、ずるい辰雄。俺にはやってくれないのに。」

「俺さぁ、昔から動物には好かれるんだよね。」



胸の上で毛繕いをする子猫を優しく撫でる品田を見ながら

大吾が負けじとばかりにねこじゃらしを揺らす。

子猫がどちらかというと品田を選ぶ理由が、なんとなくわかる気がした。

品田の胸の上で子猫が元気ににゃあんと鳴くと、峯が到着した。



「…」

「…。」



それまで大変元気そうにしていた子猫が、峯を見上げて固まっている。

スーツ姿の強面男と可愛い子猫の間には、不思議な空気が流れていた。



「峯、怯えさせんなよ。」

「そうだよ、タマが怖がってるよ。」



小刻みにプルプルと震える子猫の隣に峯が座りこむと、その小さな全身でびくっと跳ね上がった。

ぎりっと睨む峯は猫が嫌いなのだろうか。

上目遣いの子猫が不憫になってきた。



「ちぇ、チェルシー?大丈夫だよ?このおじさん、顔以外は怖くないよ?」



気を遣ってなまえが声をかけてやると、峯が伸ばした手の上に

子猫が恐る恐る一歩前足を踏み出した。



「お前はカリカリより缶詰め派なのか。」

「!?」

「奇遇だな、俺も鮪は赤身派だ。」



にゃあ!と峯の手の上で大きく鳴いた子猫は、安全だとわかったようだ。

それよりも眉間に皺を寄せて猫語?を話した峯に、なまえと品田は勿論

大吾ですらツッコミを入れられないでいる。







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