「ごめんねぇ、預かって貰っちゃって。」
約束通り、陽の暮れない内の夕方になまえの友人がチェルシーを引き取りに来た。
3人の訪問から数時間、子猫はすっかり慣れて
なまえのリビングを行ったり来たり、とても元気に遊んでいた。
天真爛漫な子猫の姿は見ているだけで癒されたし
そんな彼女に弄ばれる中年の姿は見ていると飽きなかった。
大吾がぽつりと、俺も猫を飼おうかなと呟いた際に
遠い目をした峯が「えぇ、俺も人間の女はもうたくさんです」と答えた時には
あぁ東城会の闇って深いなと改めて痛感した。
「全然、すごく良い子だったよ。」
友人に借りたお世話グッズを一式返して、さぁあとは子猫を引き渡すだけという状況になっても
3人はリビングで子猫と戯れていた。
「チェル、おじさんたちにばいばいして。」
なまえがひょいと抱き上げ、飼い主の元へ連れて行く。
子猫の青い眼が主人を認めると、にゃあとこれまでになくご機嫌な声で鳴いた。
「ミケー!」
「タマー!」
「ヴェンデルガルド…!」
「チェルシーだって。」
別れを惜しむ面々に、友人が深々と頭を下げて帰って行った。
子猫の居なくなったリビングは寂しく、静かに感じた。
「俺、やっぱ猫飼おうかな。」
「そうしましょう。本部で飼いましょう。」
「あ、そしたら俺遊びに行く。」
「極道の本部に猫ってどうなの。」
友人がお礼に持ってきてくれたお菓子を食べながら、リビングを通常仕様に戻す。
ツッコミを入れながら、もし本部に本当に子猫が居たとしたら
カチコミに来た相手もきっと戦意喪失するだろうなと苦笑した。
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