数学は品田の独壇場だった。

時折なまえは珈琲のお代わりを注いでやり、大吾は遥と共に品田の講義を聞いていた。

1時間程続いたお勉強会がひと段落着いたらしく、遥が満面の笑みでありがとうと伝えると

品田も嬉しそうに頭を掻いた。



「意外。辰雄が数学できるなんて。」

「俺理系なんだよ、実は。」



ふふんと鼻を鳴らす品田は大吾の席を奪っていた。

途中から大吾が恭しく座席を献上していたのだ。

数学はとりあえずキリがついたらしく、なまえは先日用意していたチョコレートをテーブルに置いた。

スーパーでいつもの食材と、勉強すれば脳が疲れるだろうとチョコレートを購入した時は

なんだか娘の世話をやくお節介な母親にでもなった気分だった。



「あとは…歴史だったか。」

「歴史なんてどうやって勉強したっけなぁ…。」



歴史で躓くということは、結局、授業にあまり参加していないことが直接の原因なのだろう。

仕方がないこととはいえ他の生徒もあるし、授業は指導要領通りに進む。

昨今の教育は教科書ばかりでなく、補足の参考書なんかも使いながら教えるのが厄介だ。

戦国時代から江戸時代までが所々あやふやになっているらしい遥にとって

色々と紐付けながら自分で覚えろというのは少し酷なことかも知れなかった。



「歴史はちょっと俺、苦手だなぁ。」

「理系だもんね。」

「体育会系だと思ってた。」



品田が顔をしかめ、なまえと大吾が先程の意外な一面をわざとらしく褒めた。

あんな活躍をしても、やっぱり彼はいじられる星の元に生まれているのだ。



「…織田信長から明治維新までってことか。」



今日は未成年がいる為、普段は全面喫煙可能ななまえの家で喫煙区域が設けられた。

キッチンの換気扇の下から戻ってきた峯が低い声で問いかけると

遥はひとつ頷いた。



「待ってろ。」



言うやいなや、峯はどこへ行くとも伝えないまま家を出て行った。

置いて行かれた3人は、遥の中間テストの問題用紙をつまみあげながら

墾田永年私財法の語呂は良いとか、いやいや王政復古の大号令もなかなかとか

何一つ役に立たない会話をしながらチョコレートを口に運んでいた。

30分程すると峯から、マンションの下へ着いたので荷物をあげて欲しいと連絡が来ると

大吾と品田は訝し気な表情のままエントランスへ降りていった。



「おい。」



リビングでのんびりと、どうしたんだろうねなんて言いながら遥となまえがお茶をしていると

玄関が開いて峯が遥を呼び付けた。



「峯くん、コレ、どうしたの。」

「これでも観てろ。」



なまえがまたも呆気に取られる、玄関はたくさんのDVDで埋め尽くされていた。

その背表紙にはすべて見覚えがある。

確か大河ドラマだ。



「それ史実との関係はどうなの。」

「大丈夫だろ、NHKだし。」



言われるがままに運んだ品田と大吾がひそひそと相談し合う。

同じく呆気に取られていた遥だったが、それ以上何も言わず換気扇の下へ戻って行く峯に

ありがとうございますと礼を伝えた。













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