扉をくぐると、見たこともない虫や花で溢れていた。
排気ガスと埃の匂いに慣れてしまった鼻には、青臭くて懐かしかった。
「辰雄ー!遥ちゃーん!」
大声で呼びながら歩いていると、後ろからクスクスと笑う声が聞こえた。
背後から笑われるのは本当に気に障る。
ただでさえ虫の居所が悪いのに、更に苛立たせる背後の笑い声を睨んだ。
「おぉ、怖っ。そんなんだから彼氏出来ないんじゃない。」
「馬場ちゃん!え、なにそれ生えてんの?」
振り返ると毒々しい色の花にまぎれて、馬場が生えていた。
元々草食男子っぽいなぁとは思っていたけど、まさか本当に植物だったとは。
驚いて近寄ると、馬場は気持ち良さそうに風に揺られていた。
イケないお花なのかな、と少し思った。
「そんなに急いで、どこに行くの?」
「どこも何も、まずここはどこなの?」
はぁ?と言いたげに眉を顰めて、馬場は相変わらずそよそよと揺れていた。
もう頭がおかしいのか、何か事件が起こっているのかすら分からない。
とりあえず警察に行って、それで何とかして貰おう。
「ここがどこかはなまえが決めることでもあるし、俺が決めることでもあるんだよ。」
「怖い怖い。ちょ、正気に戻ろうよ。」
このまま彼を置いていって良いものか逡巡して、抜いて運べるかと茎に手を伸ばしたけれど
酷く痛がったのでやめておいた。
「この先におたくの六代目が居ると思うよ。」
「情報ありがとう!私堅気だけどね。」
手にも見える葉をゆらゆらして、再び馬場が風に揺られる作業に戻って行った。
人間とは考える葦である、という言葉が頭を過ったけれど
深く考えないようにして、馬場に教えられた方角を突き進んだ。
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