31日の昼から集まるという話が固まったので、午前中に粗方の掃除は済ませた。
昼まではまだ少し時間があったので、手持無沙汰に仕事でもしようかとコーヒーを淹れた。
年末だろうがなんだろうが、やるべきことは実際たくさん残っている。
書類を片手にコーヒーを啜って居ると、両手にたっぷりと差し入れを持った峯が現れた。
「あれ、早いね。」
「あぁ。他は、まだ来ていないのか。」
差し入れを受け取って、まだだと返すと彼は当たり前のようにソファに座った。
まだ電源を入れていないテレビを前にして、大人しく座っている。
コーヒーを勧めると、ちょっと食い気味に断られた。
「私、まだ仕事あるんだけど…」
「あぁ、気にするな。」
「…。」
「…。」
それきりまた無言でテレビに向かう峯を、とりあえず放置することにして
なまえは書類に向き直った。
承認印は年明けに貰うとして、とりあえず大まかな筋道だけ完成させた企画書の細部をチェックする。
そうだ、ここで詰まったんだ。こういう時はクライアントの要望を再確認して…
「なぁなまえ、知ってるか。ハリケーンボンビーは、農林物件は飛ばさない。」
「へぇ、知らなかったなぁ。」
手帳を取りだして前回の打ち合わせの簡単なメモをなぞる。
クライアントの要望の骨子を見極め、じっくりコンセプトを再確認する。
こんな余裕を持った気持ちで丁寧に仕事に取り組めるのも、年末ならではだ。
「なぁなまえ、知ってるか。ハワイ怪獣アロハメハは」
「うん、大吾と辰雄、もう呼ぼうか。」
昼までまだ2時間程あるのに、息を切らして駆けつけてくれた男二人は
この寒い中汗をかいている。
本当に心根の優しい人たちなのだろうと痛感した。
「ごめんね、なんか慌てさせて。」
「いや、なまえちゃん悪くないよ。」
辰雄の息切れがすぐ直ったのに反して、大吾はいつまでもぜぇぜぇ言っていた。
同い年なのに、運動不足だなぁなんて思っていたけれど
大吾が差し入れにビールを段ボール1ケース持ってきてくれたのを見て
あぁ、気遣いの差かと身につまされた。
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