*パラレル。白蘭と骸がにょたで姉妹。シスコン。
これの続き。






 たった今、僕の妹である白蘭が発した言葉は有り得ないことで。例えるならば、そう。明日地球が滅亡するとかそういう信憑性がないものだった。だからこそ悪寒が背筋を駆け抜けた。変わらず僕をみる鋭い瞳。逸らす筈が逆に引き込まれ心臓が疼きを増す。

 嗚呼、このままじゃあ駄目だ。のまれてしまう。

 聞こえなかったことにしようと必死に息を吐いた。が、しかし脈打つ心臓は治まらずどうしようもない。
 あれやこれやと思考を巡らせているうちに右手に柔らかい“何か”が触れた。気がつく頃には時間の間隔も判らずに背中には冷や汗が流れ落ちていた。ひやりとTシャツを濡らし始めていき、不快感をうむ。

 この行動は手遅れと云う分類に振り分けられるのだろうか。

 悔やみながら数十秒前のことを回想してみる。

 発言後、混乱した僕の脳味噌と心臓は制御不能まで追い詰められた。そしてそれが引き金となり、僕の目は錯覚に陥ったと疑うほど、白蘭を捉えた。

 ふわりと揺れる白髪。形の整っている薄い唇にやんわりとした白い肌。

 一瞬で釘付けになった。

 白蘭が産まれた日、母は余りの肌の白さに吃驚し看護師に「もう一度検査して下さい」とせがんだらしい。
 苦笑した。全て記憶や目の錯覚の所為だと言い聞かせることに。制御を無くした右手には恐怖なんて存在していなかった。

 そして今。ここに僕の右手があるわけだが。

 有り得ない有り得ない。だってこれは有ってはいけない事実。正直今まで触れようと思わなかった。と云うと嘘になる。なので付け加えると怖かったから触れたいなんて。思えなかった。そんな意味不明な意地で張っている壁は自分でもよく判っておらず、取り払うことは出来ないままでいた。

 だからあと一歩が踏み出せない。無自覚の恐怖だった。

 折角ここまできたのに。

 自棄糞に思い勢いよくもう一度摘む。ふにゃりと柔軟、けれど弾力性がある頬。先程の発言に驚倒したことよりも、触れる恐怖よりも、スキンケアをまったくと云っていい程していない肌のほうが人間としてではなく女性として衝撃が大きかった。

 僕、スキンケアはちゃんと念入りにしてたのに。

 なんだか惨めな気分になってしまった。おかげで脳や手先に力が入らない。
 その“惨め”が肌に対してか自分の心臓に対してか、蟠りつつ開口した。


「白蘭の、間抜け、面。」
「姉さんよりはマシなんだけどなぁ。」


 その所為か声が、震えた。
 目線を逸らしてカウンターの胡椒の瓶を左手に取る。漂う香りに調理中だったことを思い出したからだ。右手をフライパンに戻し「白蘭は両面焼きでしたよね?」と返事を待つことはせずにくるりと目玉焼きをひっくり返した。
 少なくとも今は会話も目線を合わすことさえしたく無かった。幾ら十七年間連れ添ってきた姉妹と云えども白蘭は何を考えているか理解し難い。ただ判ることは企みがあるとき。相手を見透かしたように話を進め、躊躇無しに意見する。
 白蘭自身は思い遣りがないと云えば曖昧だが親身になって相談すると云うことが出来ないんだと思う。だってそれを踏まえている僕でさえ衰弱しているときにそれを実行されると立ち直るには時間が掛かるだろうから。

 ある程度火を通して胡椒を振るう。僕はまだ白蘭に背を向けたまま、先程の発言が繰り返されて止まらない。
 その意味がどの分類に当て嵌まるのか判らなくとも言葉は判る。僕だって日本人だ。だからこそと云っていいのかもしれないけれどそのくらい判っている。


「朝ご飯出来ましたよ。」


 右手を戻すことはしたくなかったとか振り返りながら思う僕は笑えているだろうか。何だか思うこと全て複雑になってきた。





 ねえ、姉さん。雲雀恭弥より僕を選びなよ。








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -