すべてを貴方へ贈ります。 1




欲しい物なんてないし、プレゼントなんていらない。
お互い社会人になってルームシェアも三年目だし、毎年誕生日だって浮き足立つ年でもねえだろう。
でもどうしてもって言うのなら、物じゃなく行動でプレゼントして貰うよ。
29日は休日だし一日空けてあるから、長太郎の祝いたい気持ちをその日一日俺にくれ。
たまには趣向違いでこういうのもいいもんだろ?
文句?言わないように気をつけるけど、あんまりだったら言うからな。
じゃあ29日よろしく。











「誕生日おめでとうございます」

朝、ベッドの隣が騒がしいと宍戸がうっすら目を覚ますと同時に、唇に柔らかいものがあたった。

「ん?…」

「起こしちゃいました?もっと寝てていいですからね。今日は俺が朝ご飯作りますから」

「んー…そうか」

「起こしに来ますね」

そう言って鳳はもう一度宍戸にキスをして寝室を出ていった。

今日は宍戸の誕生日。
いつもは宍戸のほうが鳳より早起きなので毎日の朝食は宍戸の当番と自然に決まっていたが、今朝は珍しく鳳が朝食を作るという。
しかもいつも宍戸の方が早起きなため『おはようのキス』なんてしたことがない。
つまりおはようのキスも宍戸への誕生日プレゼントのひとつなのだろう。
むずがゆいような何とも言えない気持ちで誕生日の朝を迎えた宍戸は二度寝をしようとしたが眠気がどこかにいってしまい、だからって意気込んでいる鳳の邪魔も出来ないと、ベッドの上でうだうだと過ごしていた。
しばらくしてリビングの方から何かが焦げたような臭いが寝室にまで漂ってきた。
仕舞には皿が割れる音まで聞こえてきた。
ここまでくると黙ってられず、宍戸はベッドから慌てて飛び出す。

「長太郎大丈夫か!?」

「あ…すみません…」

見るとキッチンの床には宍戸が気に入っていた皿が割れていて、その近くには黒焦げになったトーストが無惨な姿で転がっていた。

「宍戸さんのお気に入りの皿だったのに…」

「そんなのまた買えばいいだろ。怪我は?」

「大丈夫です」

あからさまに意気消沈している鳳の足元にある割れた皿を宍戸が拾っていく。

「危ないですよ!俺やりますから!」

「じゃあ掃除機持ってこい」

「は、はい!」

結局掃除機も手際よく宍戸が済ませ、背後でおろおろしている鳳をそのままに宍戸は程良い焦げ具合のトーストと目玉焼き、それと即席のコーンスープを作って食卓に並べた。

「食べようぜ」

「…宍戸さんをゆっくり寝かそうと思ってたのに…、仕事増やしちゃってすみませんでした…」

「元々料理作るの苦手だろ?気持ちだけ貰っとく」

「………」

「お前の淹れてくれるコーヒーはうまいなあ」

「……へへ」

やっと笑った鳳の髪をくしゃくしゃと乱暴にかき混ぜながら宍戸も笑った。
一緒に食卓を片付けて、さて次はどうするんだろうと宍戸は鳳を見てみると、出掛けるから早く着替えてくださいと促された。

「どこ行くんだ?」

「この前ソファーを買い換えたいとか言ってたじゃないですか。それを下見に行きましょう」

「夜は?」

「ケーキ予約したんで家でゆっくりしませんか?」

「…ん、わかった」

鳳のことだから服を選ぶような敷居の高い店を予約しているのかと思ったがそうでもないらしい。
安心していつものラフな格好で表に出た。
数日前までの台風が嘘のように秋晴れの青空が清々しい。

「デート日和ですねー」

「まあ、デートかなあ…」

「えっ!?宍戸さんがデートって認めた!」

「お前が今日はデートって連れ出してくれんならデートでいいぜ」

「なんか…今日の宍戸さん、優しすぎて怖いです」

「いつも優しいだろうが」

「優しすぎるんですよー」

「今日限定だからな。よく味わっとけよ」

たわいもない会話をしながら電車で移動し鳳についていく。
どこにいくのか不安半分、楽しみ半分。

「ここですよ」

家を出て一時間は経ってないだろうか。
鳳が足を止めた場所には宍戸も見覚えがあった。
数ヶ月前、宍戸が会社の同僚に美味しいと聞いた魚料理の店に鳳を連れていくときにこの道を通った。
そのときにこの家具屋を見つけたのだ。
煉瓦造りの外観と大きな窓から見える店内の雰囲気が落ち着いていて、センスの良さそうな家具が並んでいた覚えがある。

「ここって…」

「前に宍戸さんが興味深そうに見ていた覚えがあって。いい機会だし今日寄ろうかなって考えてたんです」

「覚えてたのか」

確かにあの時店の前で止まったがそれは一瞬で、鳳にはあえて何も言ってなかった。
ほんの些細なサプライズに宍戸は面食らうが、鳳は気にするようでもなく宍戸を手招きしながら店内に入っていった。







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