for you




「この集まりっていつまで続くんだろうな」

「中学の時から続いてますからねえ。大学進学でメンバーがバラバラになったらフェードアウトしていくんじゃないですか?」

毎年恒例の跡部主催クリスマスパーティーも半ば無理矢理参加させられてから今年で5回目。
今回は行かないと言いながらもこうやって毎年跡部邸宅にいる自分にため息を吐きながら、宍戸は鳳と人目を忍ぶバルコニーで夜風にあたっていた。
慈郎の騒ぐ声がここまで届いてきてチラッと後ろを振り返りながら、あいつらまだ騒ぎ足りねえのかと笑っていると、乾いた北風が突然二人を巻き込みあっという間に過ぎていった。

「さっむ…」

宍戸は自分の二の腕を抱き込むように擦って寒さをやり過ごそうとした。

「身体冷える前に戻ります?」

「んー、もうちょっとここにいる」

「でも風邪引いたら…」

ジャケットも着ていない軽装でバルコニーに出てきてしまったことを悔やみながら宍戸を心配する鳳はひらめいたというように目を見開く。

「じゃあ上に羽織るもの持ってきます!」

「…いいからここにいろよ」

身体を窓のほうに傾けた鳳の袖をぐいっと掴んで宍戸は思い切り引き寄せた。
いきなりのことで引っ張られるままにふらついてしまい、結果鳳は宍戸の左隣にぴったりとくっつく格好になってしまった。

「こうすりゃ寒くないだろ」

「…宍戸さん積極的」

「ただの風避けだから」

「俺は…嬉しいです」

「…あっそ」

「だって宍戸さんからこういう風に触れてくれるのなんて滅多にないでしょ?」

「………」

「今年はこうやって二人きりにもなれたし良いクリスマスになったなあ」

鳳の顔を横目で覗くと片方の腕が触れているだけなのにとても満足そうに笑顔を見せていた。

ずいぶん我慢させていると思う。
付き合って一年以上経つが身体を重ねたことは片手で足りる程度、それどころかキスだってそんなに頻繁にするわけでもない。
たまにぐずることもあるけれど、鳳は宍戸がその気にならない限り無理強いをすることはない。

今、隣で嬉しそうに微笑んでいるが、これも我慢している自分を見せないための虚勢からくる笑顔だったとしたらと考えてしまうと、自分の不甲斐なさが身に染みた。

「…なあ、クリスマスプレゼント欲しいか?」

「えっ!?何かくれるんですか?それなら俺も持ってくればよかった。今日は二人きりになれないと思って持ってきてないんですよー…」

「俺は今やるよ」

「わー…なんだろなあ」

「あんまり期待するなよ」

「宍戸さんから貰えるものはなんだって嬉しいです」

「じゃあ目を瞑れ」

「…えっ?」

「いいから目を瞑れって」

「なんかドキドキしますね」

鳳は目と目の間に皺をたくさん作りながらギュッと瞼を閉じた。
何も言ってないのに両手はちゃっかりプレゼントを貰うために揃えて前に出されている。
後ろからは向日と慈郎が騒いでいる声がずっと聞こえていて、宍戸が振り向くとバルコニーを遮るカーテンの隙間から忍足が向日と慈郎に押し潰されている様子が見えた。
この分じゃこちらの姿はわからないだろうと、鳳に向き直ろうとしたその一瞬、樺地と視線が合った気がした。
こちらは暗い闇夜にいるから樺地からは見えないかもしれないが、それでも今から自分がすることはどうしても知られたくない。
宍戸は人差し指を口に持っていき樺地にしーっと内緒のポーズをとった。
見えているのか知らないが樺地はスッと視線を跡部へと移した。

宍戸はバルコニーの手すりに手を掛けて、鳳の顔を覗き込むように身体を寄せる。

「宍戸さん?まだですか?」

「もうちょっと…」

跡部邸宅の広い庭を彩るクリスマスイルミネーションに照らされ色とりどりに浮かぶ鳳の顔は期待と不安でなんとも言えない表情をしていて、宍戸はそんな鳳をやっぱり好きだと心のなかで囁く。

「長太郎、メリークリスマス」

宍戸は狙いを定めて鳳の無防備な唇に自分のそれを押し付けた。
寒さで乾燥した唇の感触を感じ取れたのはほんの一瞬で、鳳はいま何が起こったのかわからないまま固まっている。

「長太郎!先に戻ってるぜ」

「…はっ!?」

宍戸の声でやっと我に返った鳳は自分の唇を指先で撫でながら瞳を大きく見開いて宍戸の声がする方へ勢いよく振り向くと、その姿を見た宍戸が顔をくしゃくしゃにして笑っていた。

「プレゼント、気に入ったか?」

「宍戸さん…!」

たぶん鳳の頬は真っ赤になっていて室内に戻った途端慈郎の格好の餌になるだろう。
宍戸はそんな鳳をバルコニーに残しひとり室内に戻っていった。

樺地とまた目が合ったが、宍戸は同じように人差し指を唇にあてしーっと内緒のしぐさをすると、樺地がなんとなくうっすら微笑んだ気がした。











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