Have a frightfully fun Halloween ! 1




昼休み、鳳は授業の前にピアノの練習をしようと少し早めに音楽室へ移動していた。
別館へ続く渡り廊下は心地よい日差しで温かく、日光が差し込む窓の外に自然と目を向けた。
すると見知ったふたりが身を寄せあって話している姿を見つけ足を止める。
雲一つない秋晴れの空の下に映える金髪は慈郎、そして迷惑そうにしているラケットを持った隣の黒髪は宍戸だった。
あのふたりは幼なじみで特別に仲が良いとわかっていてもああいう場面を見てしまうと胸のあたりがじりじり焼けた。
鳳の視線はふたりに釘付けになってしまい窓にかじり付いている。
すると突然慈郎が宍戸の肩に腕を回し、顔を近付けた。
鳳は頭で考えるより先に填め込みの窓に手を掛けていて無理矢理こじ開けそうになっていた。
そんな鳳の隣に突然現れたのは、宍戸と慈郎のもうひとりの幼なじみ向日だ。脇からぬっと出てきた赤髪にびっくりして鳳は渡り廊下いっぱいに声を響かせた。

「向日先輩!気配消して近づかないでくださいよ!」

「いや何見てんのかなーって気になって」

「…何も見てません」

「おっ?宍戸と慈郎じゃん。鳳わかりやすすぎなんだよ」

「いいじゃないですか見るくらい…」

宍戸さんと付き合ってるんですから!と続けて声に出そうになった台詞を鳳はごくんと飲み込んだ。
内緒にしているわけではないが、宍戸と鳳が恋を成就させ付き合っていることは仲間内にも話していない。
聞かれないからあえて話さないというスタンスだが、鳳からは宍戸への想いが駄々漏れしているらしく慈郎や向日には格好の餌になっていた。
そもそもふたりは鳳が後輩のくせに同性の宍戸に恋焦がれていることが気に入らないらしく、何かと妨害をしてくる。
今の向日にもそんな雰囲気が漂っていた。

「じゃあ見てるついでに教えてやろう」

「…な、なんですか」

「あれ見てみ。慈郎のやつ宍戸になんか渡してるじゃん」

「ホントだ…、なに渡してんだろう…」

「あれな、お菓子」

「お菓子?」

「今日なんの日か知ってる?」

確か今日は十月最後の日。

「…ハロウィン、ですか?」

「当たり!鳳は絶対トリックオアトリートとか言って宍戸に迫るだろうから、そのいたずら避けを慈郎が渡してんの」

「そ、そんなこと考えてもなかったですよ!」

「わからねえじゃん。宍戸甘いもん苦手だからお菓子なんて持ってねえし、それじゃあ心配だと慈郎が家からお菓子持ってきたってわけ。鳳から宍戸を守るために!俺らって友達思いのいい奴!」

「俺ってそんなに信用ないですかね…?」

「お前、自分で気付いてないだろうけど、時々宍戸を見る目がマジなときあって怖えんだもん」

それは否定できないと鳳は口ごもる。
宍戸を意識してから今まで、宍戸の汗一滴でも鳳の興奮材料になっていたことを思い出す。
宍戸のすべてを見逃すまいと鳳は部活中でも構わず宍戸を観察し続けた。
慈郎や向日はそんな鳳の表情を目敏く見つけているのだろう。
中庭にいる宍戸と慈郎はまだ何か話していて、慈郎は宍戸の肩に腕を回したまま一向に離れようとはしない。
鳳はピアノや隣にいる向日のことまで忘れて窓越しに宍戸を見ては唇を噛んだ。

「ほらな!今の目、スナイパーじゃん!」

「えっ?」

「それともハンターか?どっちにしろ宍戸が狙われてるのをわかってて見過ごす俺らじゃねえからな!」
 
半分冗談を交えた口調の向日は鳳に向かって指を拳銃のように突きつけた。
鳳は降参ですとでも言いたげに両手をあげる。

「勘弁してください…」

「今日のところは見逃してやる。でも俺と慈郎の宍戸奪還作戦は続くぜ」

向日は満足したのかにんまりと笑って教室のある方へ走っていってしまった。
これで宍戸さんと付き合っていることをふたりが知ったらどんな騒動になるんだろう、と想像してみたが自分が酷い目にあうことしか思いつかない。
鳳は身震いをして考えることを止め、まだ中庭にいるだろう先輩ふたりを見てみると、慈郎はどこに行ったのか片手にいっぱいのお菓子を持ちラケットの上にまでお菓子を置かれた宍戸だけがぽつんと鳳に背中を見せていた。
ハロウィンの鳳対策だけであんなにお菓子を準備した慈郎に、一体自分はどんな風に思われているんだろうと思うとぞっとしてしまう。
壁打ちをしようとしていたのだろう宍戸は、困ったようにお菓子を制服のポケットに詰め込んで中庭を去っていった。

「宍戸さん、あんなにたくさんのお菓子食べきれないだろうな」

あのお菓子に罪はない。
それならお菓子を俺が貰おうと鳳は考えた。慈郎が持ってくるお菓子にハズレはないしもったいないことになるよりはいいだろう。
そうなったらハロウィンに便乗してあの台詞を宍戸さんに言ってお菓子を貰ってイベントを宍戸さんと楽しんじゃおうと考え始め、鳳は早速宍戸にメールを打つ。
ただし宍戸にネタをばらすと楽しさが半減するからと【今日一緒に帰りませんか?】とだけ送信した。
するとすぐに宍戸から返信があり、鳳の部活終わりをいつものように図書室で待つということになった。







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