everyday life




鳳は思い出していた。
高校で宍戸と付き合い出してから大学に入るまでは未成年ということもあり、お互いの誕生日は学校に来てから校舎の片隅で密かに祝った。
大学で宍戸が一人暮らしをし始めてからは宍戸に邪魔だと視線を投げられるくらいに入り浸って、誕生日という特別な日には離れることなく一緒にいた。
社会人になり自由にお金を扱えるようになると宍戸の誕生日には高価なプレゼントを相談もなしに奮発してよく怒られた。
そして今、同棲を始めて五年目の宍戸の誕生日、時には帰宅が日付を跨いでしまう宍戸の帰りをリビングのソファーに深く腰掛けながら今か今かと待っている。
もうこの年になると高価なプレゼントや豪華な料理などはさほど重視していない。
毎年互いの誕生日には小さいケーキを買って、少し高いお酒を用意して、スーパーで買った好物のお総菜を並べながら談笑するのである。

今朝おはようございますのキスの次に誕生日おめでとうございますのキスを宍戸に贈ってはいたが、先に出勤する鳳はそれ以上の触れ合いをぐっと我慢して慌ただしい朝を過ごした。
仕事にトラブルがなければいつも通りに帰るとただそれだけを告げられて玄関から送り出された。
置き時計を見ればあと20分ほどで日付が変わるところまできている。
つまり仕事上トラブルがあったのだろうと鳳は重くなってくる瞼と戦いながらテレビをザッピングした。
もうずいぶん長いことお互いの誕生日をふたりでいろんな形で祝ってきた。
そしてこれからもそれは変わらないだろう。
だから誕生日当日にささやかなお祝いが出来ない年だってあっても仕方ないことなのだと頭ではわかっていても、やっぱり宍戸と食卓を囲んで宍戸の照れくさそうな表情を見つめながらおめでとうを言いたいとこの時間になっても諦めきれないでいる。
しかし時計の針は待ったなしに進んでいて玄関のノブが回る様子はない。
目の前のテレビには深夜独特のブラックジョークが飛び交う番組が映っているが、鳳の記憶はその番組から聞こえてきた乾いた笑い声で途絶えた。

宍戸が帰宅したのは日付を越えた30分後、終電には間に合う時間だったがタクシーを拾ったほうが早いと判断し、タクシーを降りてからはこの部屋まで歩くことなく急いた。
マンションのエレベーターのボタンをあんなに連打したことは子供の頃以来のことだった。

「長太郎」

一応声は掛けてみたが宍戸の見下ろす先にはソファーに横になりながら寝息を立てている鳳の姿。
つまらなそうな番組がたれ流されていて、とりあえずテレビを消そうと鳳の手から今にも落ちそうになっているリモコンを起こさないようにそっと奪いリビングを静かにした。

「ごめんな、仕事トラブって間に合わなかった」

宍戸はソファーの前に膝をつくと鳳の寝顔に向かって囁いた。
リビングのテーブルには鳳の準備してくれていた夕食が並んでいて、その中心には何も置かれてないスペースが円形状に空いていた。
そこに置かれるはずだった主役は今冷蔵庫で出番を待っていることだろう。
誕生日に間に合わなかったのは悔やまれるが、鳳の気持ちが十分伝わってきた。

十代の頃に比べたらハリもツヤもなくなった鳳の寝顔を間近で見つめていると愛しさが宍戸のなかで膨れ上がる。
少し眉間に皺を寄せながら寝ている鳳の頬を指の背で優しく撫でた。
今朝剃ったはずの髭が微かに肌にあたった。

「長太郎」

もう一度呼んでみたが反応なし。
右頬がソファーに押しつけられ唇も変に歪んでいるのでそこにくちづけることは諦めるとして、先ほど撫でた左頬に軽くキスをした。
誕生日を祝ってくれてありがとうの意味を込めて。
すると鳳の口から何とも聞き取れない寝言がこぼれ出る。
宍戸は咄嗟に身を引いて鳳の様子を伺ったが起きる気配はなかった。
俺からこんなことするの珍しいのに残念な奴だなと口元に笑みを浮かべながら、宍戸はまた頬にくちづけた。
今度は今まで一緒にいてくれてありがとうのキス。
そして今度はこれからもよろくな、の願いを込めてのキス。
仕舞にはキスの理由なんて考えることをやめて、無防備に寝ている鳳の頬に時にはリップ音付きで何度も何度もくちづけた。
ごく希にこんなことをやると早々態勢が逆転してしまうから宍戸としては楽しくてたまらなくなったのだろう。

「ホント、鈍感なやつだな」

そういえば会社から帰ってきた姿のままだったと、窮屈に首を締め付けているネクタイを外しながらまた頬にキスを落とした。
すっかり油断していた宍戸はソファーからだらんとはみ出していた鳳の腕が自分の腰に巻き付いてきたことで鳳が起きていることを知ることになってしまった。

「えっ、あ、長太郎!起きてたのかよ」

「お帰りなさい」

「…ただいま」

「続けていいですよ」

「お前…」

気付けばYシャツの裾から進入した鳳の指が宍戸の素肌をゆっくりとなぞっっている。

「んっ…」

「敏感ですね」

「さっきまで涎たらしながら不細工な面して寝てた奴が生意気なんだよ」

「じゃあ…やめます?」

「やめるな。まだ誕生日プレゼントもらってねえし」

「宍戸さん…」

「…長太郎が欲しい」

宍戸はソファーに寝ている鳳の上に乗り上げ腰をぐいっと押しつける。
鳳の下半身を煽りながらやっと唇にキスが出来ると宍戸から顔を近付けた。
今の時間を考えると明日の出勤に支障がでるのはわかりきっている。
でもこの熱を手放すことは出来ない。

もう一生手放すことは出来ない。










宍戸さん誕生日おめでとう!2013.09.29



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