切れ端ラブレター 1
※この話はとある拍手文の過去話になっています。
こちらを読んでからの方がわかりやすいです。
『愛してる』
中学の頃から好きだったと言ったらビックリされた。
確かに後輩だと思ってた男が自分のことを恋愛の対象にしているなんて知れたら、もう名前さえ呼んでくれないだろうとか考えて怖くなったから、当時はどうやってもバレないようにとひた隠しで先輩と過ごした数年間だった。
そんな甘酸っぱい思い出をかい摘まんで聞きたいだなんて、俺恥ずかしくてどうにかなりそうです。
*
今思えばあの特訓の最中から俺は宍戸さんに惹かれていたのだと思います。
すごく怖い先輩っていう印象の方が強かったから、それが特訓が始まってみれば、必死に頑張る姿が虚勢を張っているようにみえて、あぁこの人は自分の弱さを隠してまでテニスに食らいついているんだなって、そんな日々は辛いだろうから俺の前だけでは本心を見せてほしいなって思ってました。
まだ俺も世間知らずの中二でしたけど何故か宍戸さんは俺が支えてみせる、弱さも強さも全て支えて踏ん張る、なんて思ってて、その時にはもう宍戸さんに惹かれ始めていたんだろうな。
無自覚でしたけど。
その夏の大会後、もうすぐ三年生が引退だっていうときの宍戸さんの誕生日。
あの日に俺は宍戸さんを好きなんだって自覚したんです。
宍戸さんは覚えていないかもしれませんが、あの日俺プレゼントを用意出来なくて手元にあった桃味の飴をふたつ宍戸さんにあげたんですよ。
当日まで宍戸さんの誕生日が9月29日だって知らなくて、忍足先輩と向日先輩が偶然話してるのを聞いて、今日が誕生日なんだってすごく焦った記憶があります。
やっぱりお世話になった先輩には何かしなきゃって、まだ自覚してない俺は思ってましたね。
でも知ったのは部活の時、しかも引退間近の三年生は早々帰る時間。
気の利いた誕生日プレゼントなんて用意出来るハズもなく、仕方なく飴を差し出したんです。
「な、何の真似だよ…」
「あの…、今日が宍戸さんの誕生日だって、さっき知って…」
「あー…それでコレくれんの?」
「もっとちゃんとした物用意出来ればよかったんですけど…すいません」
「なんで謝るんだよ!貰っとく」
「お、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとな」
宍戸さんはその場で桃味の飴を一個口に入れたんです。
結構大粒の飴で、宍戸さんほっぺを膨らませながら目を真ん丸にしてて、まずその顔にドキッとしちゃいました。
「あまっ!うおお…あめぇな…」
「不味かったら吐き出してください」
「ん?食うよ。甘いけどプレゼントだしな」
飴貰ったことは何となく覚えてるんだ。
じゃあこの後のことも覚えてます?
俺、心臓止まるかと思ったんですよ。
「この味…長太郎っぽいな」
「…へっ?」
「なんか、お前とちゅーしたら甘い桃の味がしそうって思ったり」
そんなこと言われて、一気に顔が熱くなって、鏡無くてもわかりましたもん。
俺の顔が真っ赤になってたの。
そしたら宍戸さんが追い打ちをかけたんですよ。
「ちゅーしてみる?」
「はっ!?えっ、そんな…」
「なんだよ、本気でするとでも思ったか?そんなに嫌がんなくてもしねえよ、バカだなー」
覚えてないんですか!?
そんなもんですよね。
俺は全身から火が吹き出る勢いでしたよ。
他の先輩にその台詞を言われたりしてもこんなに胸がどきどきしたりしないでしょ?
どう考えても宍戸さんに言われたからだって思って、出来れば本当にその場でキスしたいって考えてしまいました。
それで自覚したんです。
俺はこの場でキスしたいほど宍戸さんのこと好きなんだって。
でもさっきも言った通り、男の後輩に想われてるのが宍戸さんにバレたりしたらこれから避けられそうだし、高校行ってもダブルス組んで欲しかったし、そうなると今までの関係を崩さないように恋愛感情を押し殺す方を選択したんです。
たまにこのノートの端やメモ帳なんかに溢れそうな感情を書きなぐって、それで気持ちを抑えてました。
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