こたつにみかんと隣には…
「耳あてにマフラー、ダウンコートと…そのズボンの中にヒートテックレギンス穿いてるんだろ?」
「はい」
「それと…カイロが4つ?」
「正確には外に出てからもう1つ開封予定なので5つです!」
「どんだけだよ!」
宍戸は自分の部屋に来た鳳の防寒対策万全の有様をこたつに寝そべりながら視線だけ上下に動かして見た。
その宍戸の態度が嫌だったのか鳳も眉間にしわを寄せている。
「だから!今から初詣に出かけましょうよ!」
「えーっ明日の午後あたりでいいじゃん。なにもこんな寒い中並ばなくてもさぁ」
「宍戸さあん!」
「いいからまずはこたつに入れば?」
鳳はいくぶん頬を膨らませたまま耳あて、マフラー、ダウンコートを脱いで、靴下のつま先部分に貼ってあるカイロもベリッと剥がしてからこたつに入ってきた。
宍戸とは反対の場所に入ったために鳳からは寝そべる宍戸はよく見えていない。
こたつの中で足が触れたが、どちらも動じないでいる。
鳳が顔には出さず足で少しだけ宍戸のふくらはぎを押してみた。
しかし宍戸はそれをやんわり回避したかと思えば鳳の足に勢いよく自分の足を乗せてきた。
痛くはないが鳳は宍戸のそういう態度にムッとして逆に無反応を決め込む。
気怠そうに宍戸が上半身を起こして鳳と対面した。
まだ頬を膨らませている鳳の前にみかんを一個置く。
「みかん一個で初詣諦めるような安い男じゃありませんからね」
「そんなに行きたいのかよ」
「だって付き合って初めての年越しですよ!宍戸さんといろんなところ行きたいし、願いごとだってしたいです」
宍戸の特訓に鳳が付き合ってから二人の仲が急速に縮まり、最初にハッキリと想いを自覚したのは鳳で、部活を引退すると同時に自分の中に潜んでいた気持ちを理解したのは宍戸だった。
それから間もなく宍戸の切っ掛けで付き合い出し、まだ一度しか身体を合わせていないふたりだが、こうやって互いの家に気兼ねなく出入りできるようにまで成長した。
口や態度に出さない鳳だが宍戸は気付いている。
たぶん鳳の願い事は宍戸との二度目のチャンスを懇願していることを。
最初の時に宍戸への負担が大きいことに気付いて以来、キス以上の触り合いまではしているがその先を躊躇するようになった。
宍戸が身構えてしまうのを鳳は察しているのかもしれない。
ぶつぶつ言いながらもみかんを剥き始める鳳の手元を見ながら宍戸は考えていた。
痛いもんは痛い、怖いもんは怖い。
身構えてしまうのも仕方ない。
でも長太郎の優しさも酌んでやりたい。
「そんなに願いたい事あるのかよ」
「まぁそれは…いろいろと…。し、宍戸さんこそないんですか?」
「んー…ねえな」
「ホントに?」
「なんでお前が時化た顔してんだよ。俺は神頼みして叶うような願い事じゃねえの。神様じゃ叶えられないんだよ」
「…大きな願い事なんですね…」
鳳はみかんを三房一気に頬張った。
そんなに酸っぱくもないみかんのはずだが、鳳の表情はますます雲行きが怪しい。
宍戸はそんな鳳を見て呆れ気味に溜息を吐いて、それから口元を綻ばせた。
切っ掛けなんてどこにでも転がっていて、それは俺が拾って投げかけてやった方が意外とスムーズにいくんだ。
長太郎は俺を好きすぎて足踏みしちまう。
そんなのとっくにわかってるんだからな。
「逆だよ。慎ましい願い事。でも神様じゃ叶えられないんだ。だって俺の願い事は『長太郎とずっと一緒に居られますように』だもん。お前しか叶えられない願い事、だろ?」
「…しし、ど、さん」
「ほうほう、顔が真っ赤になってるぜ」
「笑わないでくださいよ!」
「笑ってねえよ。で?初詣は行くの?」
「い、行きません!そのかわり…そっちに行っていいですか?」
「狭ぇよ」
「狭いほうがいいです」
ぎゅうぎゅうに宍戸の左に侵入してきた鳳は、すぐさま宍戸のこめかみにキスしてきた。
びっくりするどころか当たり前のように平気な顔して鳳へと顔を向けた宍戸の唇をも奪う。
離れそうになった鳳の唇を今度は宍戸が追いかけて少しずつ深くなってゆく口づけにこたつの暖かさが邪魔になるときも間近だ。
新年のあいさつよりも今は相手の温もりを第一に。
神様よりも願いを叶えてくれる相手を大切に。
ずっと一緒にいたいから…
終
2012.01.01 元旦
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