『は?立海に練習試合しに行く?』
練習が終わり、帰る支度をしていた時、跡部が突然、土曜日は立海へ練習試合をしにいく。と言った。
「今度は俺らが行くのか?」
「あぁ。」
『練習試合ばっかりね。』
「マジマジ!?やったァー!丸井くんに会えるC!」
『よかったわねジロー。私留守番してるから。気をつけて行ってらっしゃい。』
「お前も行くんだよ。何言ってやがる!」
『は?私が行かなくても立海にマネージャーいるでしょ?』
「立海にマネージャーはいない。」
『……』
ガーンとショックを受ける美麗。立海のマネージャーに全部任せとけばいい。自分は家でのんびりしとこう。という考えは儚く散った。
「いいかお前ら。来週の土曜日、七時に学校の正門に集合だ。遅刻するなよ。特に美麗とジロー!」
『「えー…どーしよっかなー」』
「どうしよっかなじゃねェ!つーか息ピッタリだな!打ち合わせでもしたのか!!」
美麗とジローは顔を見合わせ、ニッ、と笑った。
そして迎えた土曜日。
正門には美麗以外全員いた。七時を過ぎても美麗は現れず。痺れを切らした跡部は電話をしようと携帯を取り出した。
「あ?メール…?」
跡部の携帯に一通のメールが届いていた。メールの相手は、美麗。
「はぁ!?」
「「「「!?」」」」
突然の大声にびくっ、となる忍足達。
「あ、跡部?どないしたん?」
「美麗の奴…もう立海にいるってよ。」
「は!?」
驚愕するメンバーに、跡部はメールを見せる。
まだ来ないの?
私もう立海にいるんだけど。
さっさと来い!
「……
いくらなんでも早過ぎやろ。」
「…何時に起きたんだろうな。」
「さすが先輩!やれば出来ますね!」
「やりすぎだと思うC。」
跡部が美麗に電話をかけてみると数回コールが続いた後、馴染みのある声が聞こえる。
「テメェ!なんで先に行った!こーゆー時は団体行動だろーが!」
《うっさいわね!寝不足なんだから叫ぶんじゃねーよ!》
「寝不足ぅ?だったら早起きなんてすんなバーカ!」
《したくてしたわけじゃない!!弦のせいだぁ!!》
「…真田?」
《弦が迎えに来てくれたの!わざわざ神奈川から東京まで!アイツ何時に来たと思う!?朝の4時よ4・時!!叩き起こされて半ば無理矢理立海に来させられたんだよ!!着いた時間何時だと思う!?6時半よ6時半!!練習試合開始は9時なのに!その間何すればいいんだチクショー!!》
「…………悪かった。すぐ行く。」
ノンブレスで受話器ごしに叫ぶ美麗はゼーハーと息切れていて、その声は他のメンバーにも丸聞こえで、息つぎせずに言い切った美麗に対して拍手を送っていた。
電話を切った後、跡部はみんなにバスに乗るよう指示した。
荷物を積み込み、バスに乗る。
午前7時35分、神奈川県へバスは出発した。
約一時間で神奈川県立海大附属中学校へ到着した氷帝レギュラー達。立海は氷帝よりは小さいがなかなか立派な学校だった。
跡部達は門をくぐり、美麗がいるであろうテニスコートへ急ぐ。コートに近付くにつれ、パコーンとボールの打つ音が聞こえてくる。もう練習しているのか。と関心する跡部達。テニスコートにつき、美麗を探す。
「アイツどこ行った?」
「……跡部さん、あそこ。」
「アーン?」
日吉が指さした先を見れば、氷帝のジャージを着た美麗がテニスコート内にいた。手にはラケットを持っている。
「「「「………」」」」
何やってやがるアイツは…と、
ため息をつく跡部。
美麗の周りには立海レギュラー陣がいて、どうやらテニスを教えているようだった。
「先輩ー!行きますよー!」
『はーい!』
パコーンと打ったボールはまっすぐ美麗の元へやってくる。
ボールを打つ瞬間、美麗の目がカッ!と見開かれる。
『ぅぉらァァ!!』
気合いの声を上げ、振ったラケットはボールをとらえたもののありえない音を立ててはるか彼方へと消えて行った。
「「「………」」」
「「「………」」」
しーんと静まり返るテニスコート。誰かがスゲェ、と呟く。
『やった!ホームラン!一点ゲットォ!』
「…あの、先輩?これテニスっスよ?」
『知ってるわ。』
「テニスには
ホームランなんてなか。」
『え…違うの!?』
「何本気で驚いてんだよぃ!お前のそれは野球じゃん!それでもマネージャーかよ?」
『黙れブタ。』
「ぶ、ブタァ!?」
喚く丸井を押さえるジャッカル。美麗はふん、と顔を反らす。
「美麗ちゃん。ボールはあの白いラインに落とすって言わなかったっけ?
かっ飛ばせなんて言ってないよ。」
『そうだっけ?』
「ラケットの持ち方も違うよ。こう。」
『?……こう?』
いまいちわからなくて首を傾げる美麗に幸村は後ろから抱きしめる体制で握り方を教える。
「「「!!?」」」
驚くメンバー(もちろん氷帝も)だが、気にする様子はない二人。
「じゃあもう一回やってみる?」
『うん。』
握り方を教わり、再チャレンジ。力み過ぎないように。と注意を受けた美麗はわかってる。と返事を返す。
再度赤也がボールを打つ。
『ほいっ!』
今度は綺麗に返した。
落ち着いてボールを打つ美麗はどうやらマスターしたようだった。ラリーが続く。
「すごいな。もう完璧にマスターしている。」
「美麗は昔から運動神経よかったからな。」
少し離れた場所で、真田と柳が話している。そこへ幸村もやってきた。
「真田。美麗ちゃんはホントにすごいね。練習重ねたら絶対強くなるよ。」
「フッ…」
美麗を褒められ、なぜか嬉しそうな真田。三人の元に、ラリーを終えた美麗達がやってくる。
『弦、ラケットありがと。』
「あぁ。」
「テニスはどうだった?」
『なかなか楽しいわね。興味なかったけど…またやってみたいかも。』
テニスの面白みを知った美麗はそう言いながら笑った。
『…あ。』
美麗がフェンスの向こうにいる氷帝陣にやっと気付き、大きく手を振る。
『おーい!景吾ー!!』
笑顔で手を振る美麗とは対象的に、彼らはムッとした顔だったが、そんな事には気付かず、駆け寄ってくる美麗。
「……お前、前に俺がテニス教えてやるって言ったのにめんどいからいいっつって断ったよな?なんでアイツらに教えてもらってんだよ。」
『そうだった?忘れたわよそんな昔の事。』
「…一昨日の事なんだがな。」
呆れる跡部のその表情はやっぱり不機嫌だ。他のみんなも、浮かない表情。それにやっと気付いた美麗は首を傾げる。
『どうしたの?みんな元気ないけど…』
「「「別に。」」」
声を揃えて一言だけ言うと、ふい、と美麗から離れていく。
『?』
なぜ不機嫌なのかさっぱり見当もつかない美麗はただただ首を傾げる。
「やぁ跡部。」
「幸村か。悪い、待たせたな。」
「いや。うちが早過ぎただけさ。それより、美麗ちゃんが先に来たのにはびっくりしたよ。
一緒に来るとばかり思っていたから。」
「…真田に連れてこられたらしいぜ。」
「みたいだね。来た早々
真田殴ってたよ。」
ふふ。と笑う幸村。
氷帝陣の機嫌は悪くなるばかりだ。
「でも、美麗ちゃんと長くいられたし真田に感謝しなきゃな。」
幸村は柳と真田と話している美麗を目を細めて見つめていた。美麗を見つめる表情は明らかに優しい。まるで愛しい人を見つめるような。
幸村が美麗を好いているのは見てわかる。いや、幸村だけではない。真田も柳も、切原も丸井も仁王も柳生も、みんな美麗を好いている。
美麗を取られたという悔しさ。イラつき。焦り。なんだかよくわからない感情が、彼ら氷帝陣の胸中に浮かぶ。
「…
ウチの美麗が迷惑かけたな。」
跡部がウチのを強調する。
幸村は一瞬きょとん、としたがすぐに何かに気付いたらしく、クスッ、と小さく笑った。
「もしかして…やきもち妬いてるのかい?」
「「「「!!」」」」
図星をつかれた彼らはピクリと反応。幸村は、そっか。みんな美麗ちゃんが大好きなんだね。と笑いながら言った。
図星すぎて、反論すらできない氷帝陣。幸村は追い討ちをかけるように続けた。
「美麗ちゃん、氷帝より立海のがいいなって言ってたよ。」
意地悪く笑い、練習始めるぞと部員達に告げる。時刻は9時を過ぎている。
その後はスムーズに進んだ。
途中、氷帝よりも立海とばかりいる美麗を見て不安になる者もいたが、無事、練習試合を終えた。
「先輩…もう行っちゃうんスか?」
『うん。またね赤也。』
「今度一緒に遊びたいっス!」
『わかったわかった。』
「またメールするっス!」
『わかったわかった。』
「美麗。気をつけて帰るんだぞ。なんなら送って…」
『いい!いらない!つーかアンタ車持ってんの?』
「あるわけないだろう。待ってろ、兄を呼ぶ。」
『やめてあげて!竜兄が可哀相!みんなと帰るから平気よ!!』
真田ってこんなんだったか?と、見ていた誰もが思った。
「今日は遠い中ご苦労様。いい練習になったよ。ありがとう。」
「いや、こっちこそ。またやろうぜ。」
「あぁ。」
跡部と幸村が互いに握手を交わしてから、氷帝陣はバスへ乗り込む。別れの挨拶をしたところで、バスは出発した。
「…なぁ美麗。」
『何?』
跡部の隣に座る美麗に、向日が遠慮がちに声をかける。
「……いや、なんでもない。」
『?そ。』
なかなか聞き出せない向日の変わりに跡部が言う事に。
「美麗。」
『んー?』
「お前、氷帝と立海どっちが好きだ。」
『は?何よ急に…』
おかしな質問に怪訝な顔をする美麗だが、跡部達は至って真面目。
『……そうねぇ…』
美麗は少し考え、くるりと後ろを振り向き他のメンバーを見る。彼らの顔を順番に見渡し、最後に跡部を見て…やがて何かに気付いたらしく、ふふ、と薄く笑う。
『…もしかしてあんた達、やきもち妬いたの?』
「「「「!」」」」
またしても図星をつかれ、ビクッとなる跡部達。その顔はうっすら赤く染まっている。
『そっか。私が立海のみんなと仲良くしてたのに妬いたんだ。可愛いとこあるのね。』
クスクスと笑う美麗に、彼らはバツが悪そうに視線を反らす。
『私は、氷帝が1番好きよ。』
美麗の答えに、安堵した表情を浮かべるみんな。嬉しそうなその表情に、美麗はまた笑う。
氷帝レギュラー陣の心にかかっていた分厚い雲から光りが射し、やがて綺麗な、すっきりとした青空が姿を表した。
機嫌がよくなった氷帝陣のバスの中からは、ちょっとうるさいくらいの賑やかな声が響いていた。
***
玲様からキリリクでした!
遅くなってしまい申し訳ありません…。立海レギュラー陣と仲良くしているヒロインを見て氷帝レギュラー陣は嫉妬する。という素敵なリクエストの結果、こうなりました(笑)
よっぽどヒロインが好きなんだなぁ。って感じてもらえたら幸いです。
リクエストありがとうございましたm(__)m
管理人:雪紫天音
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