効果抜群
それは三年生になってから二週間が過ぎた、4月の下旬のこと。休み時間に教室で本を読んでいた美麗に、幼馴染みである跡部が声をかけた。

「おい美麗。」
『……』
「おい!」
『………』
「……っ返事しやがれェェェ!!」
『あっ!ちょっ何すんの!?今最高の場面だったのに!!』



何度声をかけても反応しないことにイラ立ち、跡部は本を取り上げた。1番いい所で取り上げられてしまい、憤怒する美麗はガタリと席を立ち幼馴染みを睨みつける。


「俺様を無視するたァいい度胸じゃねーかアーン?」
『私の本を取り上げるなんていい度胸ね。なんか用?』
「あぁ。…つーか何読んでんだ?……“拷問大百科!”…相変わらず趣味が悪い。」
『さっさと用件を言え。』


本を取られて不機嫌な美麗にはお構いなしに、跡部はああ、と口を開いた。


「お前、テニス部のマネージャーになれ。」
『嫌。』
「……即答かよ。」
『なんで私がそんなめんどくさい事しなきゃなんないの。マネージャーってアレでしょ。部員の言いなりになるやつでしょ。そんなの嫌よ。』
「言いなり…まぁある意味そうだが…よく言えばサポートだ。部員の手助けをやってほしいんだよ。」
『なんで私なの。マネージャーやりたい子はたくさんいるんだから、他の子にしな。』
「…お前がいいんだよ。」
『……それでも嫌って言ったら?』
「お前に拒否権はねェから安心しな。」
『いや安心できないんだけど!』
「とにかく!放課後、部室にこい!いいな!?」
『は?嫌よ!』
「来いよ!!わかったか!?」
『偉そうに言うんじゃねーよクソが!!』
「やんのかよアーン!?」
『上等じゃない!!かかってこいやァァ!!』



殴り合いの喧嘩は勝敗つかず、なにも解決しないまま放課後になってしまった。
休み時間ごとに来い来い言われたがすべて嫌の一点張りで断り続け無理矢理連行されそうになったところを逃げ出した。全力で走り追いかけてきた跡部を振り切った美麗は校門を出てからホッと息をついた。しかし、安心したのもつかの間だった。
家に向けて一歩足を踏み出した時、携帯が震えメールが届いたことを知らせた。嫌な予感がしつつもメールを開き内容を読むと、美麗は目を見開いた。予想していた通り跡部からのメール。ただの怒りのメールならば無視していたのだが、無視できるような内容ではなかった。


“今すぐ戻ってこい。来なけりゃお前の大好きなキノコはすべて廃除する。”


『な、な…なんですってェェ!!?景吾の奴…っ!』


愛するキノコを人質に取られてしまえば言うことを聞かざるを得ない。弱点をついてくるなんて、セコい奴め!そう悪態つきながらテニス部部室へ足を向けた。部室内でも散々渋った美麗だったが、跡部が最高級のキノコをくれると言った途端に目の色を変えやります!とあっさり了承。


大好きなキノコのためならマネージャーなんて安いもんよ!と笑いながらの言葉に、キノコ効果は抜群だな、と満足気に頷いた跡部であった。


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