水底の夜光虫 | ナノ

▽ 表裏一体の笑顔


据わった無表情の目から一転、本当に女なのかと疑うようなゲスな笑みを浮かべるクレイオスと不気味な笑みから蔑み嘲るようなものに表情を変えるメルツ。
相手の出方を計った数分のち──

「「死ねよ」」

言葉がかぶった時には既に間合いは詰められておりクレイオスの首を狙った氷柱のような鋭い水晶の欠片は彼女の体を添うように逸れ、メルツを狙ったヤクザキックは彼の片手に止められている。
メルツが舌打ちしたのと同時に口角を釣り上げたクレイオスはそのまま掴まれた足に体重を掛けて未だ伸びきってはいないその足で彼を押すように蹴りつけた。
数メートル間空中を飛んだ彼だったが背後に迫る水晶の柱に叩きつけられる前に両踵を地面に接触させ、その反動を使って勢いを殺し更に宙転をして勢いを殺したあと四つん這いの体勢になり両手両足を地面に押し付けて完全に勢いを殺す。と、そのままの体勢で上へと跳ぶ。
追うようにして地面から鋏の刃のような水晶が現れ花の蕾のように閉じる。
一瞬でも反応が遅ければ挟まれ己を12等分にしていたであろう凶器の花から視線をクレイオスに移したところでメルツは弾けるような音がするほど強く、音速で空を蹴り身体を捻った。

「グキャウ!」
「っ!!クソが!」

彼がいた場所を大口を開けて通過する水晶でできた透明な龍は食いつけなかった腹癒せと言わんばかりに完全に横を通過する前に彼を尾で地面へと叩きつける。
まんまと尾で叩かれ重力に従って地面に叩きつけられたメルツで立ち上がった土煙を確認したクレイオスはどこからともなく取り出していた本の開かれたページを軽くノックするように叩く。
すると宙を泳ぐように飛んでいた龍は文字の羅列となり、そのまま泳ぎながら本の中に吸い込まれて行った。


力量の差を確認した彼女は10秒経っても反撃してこないのをいいことにコートの下に本をしまい、変わりに煙草とライターを取り出して火をつけ始める始末だ。
いや、反撃があっても自動防御がついている彼女には石が飛んでこようが槍が降ろうが毒や酸が降っても余裕であろう。
現に氷柱のような水晶が幾つも飛んできているが煙草を吹かす手は止めない。
切り裂くように砂煙から飛び出してきたメルツが握っている鋭い水晶がクレイオスの脳天に振り下ろされる。が、やはり自動防御を前に彼女を傷付けることはできず逆に接近し過ぎた為に目の下に煙草を押し付けられる羽目になってしまった。

「自分は一歩も動かずに人が逃げる姿を一服しながら観賞とは随分とお上品になったもんだなこの阿婆擦れがァ!!」
「ぬかせ、この能無し寄生虫が。てめぇみてーなやつでも物を使えるようになったとはネズミ程度の知恵が付いたのかよかったじゃねぇか!!」

「……バン、あの…さっきのとは違う意味で2人を止めて……」
「いや、ムリ」

バンとの再会を果たし、追っ手のギーラを無事退けクレイオスと敵の戦闘を野次しに来た大罪4人とエリザベスとホーク、それにエレインはどん引いていた。
クロノスを……クレイオスを助けて!とバンに懇願したエレインでさえも前言撤回を申し出て罵り合いを止めるように頼む始末。
どれだけメルツが刺そうとクレイオスに切っ先を向けても磁石の同極同士が正面向かい合いくっつかないようにクレイオスを避けてゆく。

7人に気付きつつも口は止めない2人。
旦那に対しての口の聞き方がなってねぇんだよクソ女!臓物ぶちまけて死ね!
誰が誰の旦那だ、脳髄破裂して死ね!
穴という穴に苦悩の梨突っ込んでやろうかあぁ?!
切り落とされるかカテーテル突っ込んで拡張か選ばせてやるよ!
メリオダスとバンがエリザベスとエレインの耳をそっと塞ぎ、キングはそっと己の神器で前を隠した。

「おいおい!女がいる前でなんて言葉言ってんだよ!」
「「黙れポークビッツ」」
「誰が巧いこと言えと!!」

水晶と最早武器と化している煙草で鍔迫り合いを行う2人だったがホークの声に思わず言い返し、被ったことによって殺気が目に見える程にまでの凶悪な睨めっこが開催される。
ハブとマングース、龍と虎、修羅と羅刹、それに似た対立を見せる2人が間合いを取る。





自重は知らない



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