■ 私

「アレースさん?最近真夜中になっても貴方の部屋から光が漏れているとシシィから聞きましたがちゃんと休んでます?いえ、言わなくて結構ですので二週間程山に籠もって養生して来てください。早く帰って来たらモーニングスターの覚悟はしといてくださいね」

自らが経営する店で、私がオーナーだと言うのに従業員─キャンディ─から休めと命令され、店を追い出されて早二日。私は懐かしの地、コルツ山に足を踏み入れていた。

足場の悪い岩肌の上。
遮るものがなくてストレートに当たる風をコートの釦を外し、少しラフになった一身に受けながらこの変わらない景色を眺めている今の私を、通り掛かった人が見たら嘸や驚くことだろう。
こんな山奥に誰かが来た時点で驚くのは私だろうけど。

ここまで来る人達といえば大体は本部に向かうリターナーの人達かコルツ山を拠点に修行してるダンカンさん一家ぐらいだろう。あとは私のような物好き。

久々に来た訳だし、コルツ山麓にあるダンカンさんの有する小屋に挨拶しに行くことも考えてたんだけど、店に来ては、従業員の女の子とツケで遊んだ挙げ句、勝手に寝泊まりして行く銀髪ギャンブラーに拉致られ、山頂に放置された私にそんな余裕はなかった。
てか絶対、ツケ帳消しにする代わりに山ん中に置いてこい、ってマニ(従業員)に言われたな。
ダリルに言われてだけど、落ちた飛空艇から助け出したのが私だってこと忘れてんだろ。あいつ。

「フー!フー!!」
「あ、ごめん。忘れてた」

バタバタと暴れる上着の裾にひっしとしがみついていた一つ目の黒毛玉を胸ポケットに移動させて、頭なのか背中なのか判断のつかない部分を人差し指でぐりぐり撫でてやれば、やつは満足したのかそのまま寝てしまった。

うーん……目瞑っちゃうとますます毛玉に見えるんだよね。

毛玉なこの子とは20年弱の付き合いだけど未だに毛玉と間違えてゴミ箱に捨てそうになる。
初めて会った時は黒いケセランパサランだと思って瓶に摘めたっけ。
金色の目が合った瞬間投げたけど。
ぺっちょんぺっちょん瓶の中で跳ね回って泣いてたね。


懐かしい思い出に浸りつつ、夕陽に染まるコルツ山を一眺めして、昔ここに来た時に使っていた洞窟を今回のねぐらにしようと行ってみたら、誰かに先を越されたのか、中から火特有の温かい明かりが漏れているのが目に入った。

「フー……」
「あーあ、残念だねぇ」
「フイフイ!」
「何言ってんのかわかんね」

頭の上に乗っかって髪の毛を引っ張ってくるこいつの言いたい事はなんとなく分かる。
でも結構かまってちゃんのこいつの話しを一々聞いてちゃキリがないから知らん振り。

「別の場所探そっか」
「フーッ!フウゥゥウ!!」
「こら、声大きい」
「誰だ!」

ほら見付かっちゃったじゃんこの馬鹿毛玉。
あとで冷涼目薬してやるから覚悟しろ。

「リターナーの者か?それとも……帝国兵か?」
「そのセリフ、そのまま返すよ。ちなみに帝国兵だったらボコる」

逃げ出す事もできたけどリターナーの名前が出てきたのと、山を降りた所にそのリターナーの本拠地があるのを思い出して止まる。
ウチの店で独自に得た帝国の情報を買ってくれているのは主にリターナーだ。
洞窟にいるのが帝国兵だった場合、リターナー本拠地が見付かり潰される=情報買ってくれる人が低下する=売り上げも低下。
お得意さんが減っちゃ困るのは私と従業員の女の子なんだから何が何でも守んなきゃね。

「私は……」

どこぞで聞いた覚えのある声だけど油断はならない。
私が想像している人がこんな僻地にいる訳がない。
……行動力が強い人だからいても可笑しくないけど、いたらいたで驚くからやめてほしいし。

万が一の為に左手首に仕込んだワイヤーを何時でも撃ち込めれるよう構えていれば、声の主は武器も持たずに洞窟から出てきた。
……不用心な。
私じゃなかったらどうすんだ。

「私はフィガロ王国の国王、エドガーだが……まさか友を忘れてはいないよな?アレース」
「ただでさえ少ない友人を忘れる訳ない……ってか、何でこんな所にいんの?」
「それはだな「アレース!!」
「!?」

洞窟の外にいる私が敵ではなく、エドガーの友人だとわかった彼の仲間がゾロゾロと出てくる中、エドガーと同じ髪と目の色を持った大男に視界を遮られた。
うん、私好みの筋肉。じゃなくてね、普通の人は出会い頭にタックルハグなんてかましてこないんよ。
鍛え上げられた胸筋で顔面打ったのに気付いてくれないよこの人。
抵抗しない私も私だけど。

てかすいません。貴方誰ですか?

「酷いなアレース。兄貴のことは分かるのに俺は忘れちまったのか?」
「ア、ニ……キ?……いやいや、でも、え、は?」
「私とアレースは5年前に一度会ってるが、お前とは15年振りだろ?無理もないんじゃないか?」
「いや、9年前に会ってる」
「俺とティナ、話について行けてないんだけど……」

やっとまともに見れた顔とエドガーの呼び方と9と15という数字で誰かはわかった。
いやでも、なんか認めたくない。認めたら負けのような気までしてる。

9年前に会った時は精々細マッチョの領域だったのに、どうやってこうなった!

「もしかしなくてもマッシュ?君、逞しくなったね」
「修行ばっかしてたからな」

エドガーと私よりちっちゃかった彼は、私達よりおっきくなっても笑顔と中身は変わってないみたい。
純粋な向日葵って感じ。
日も暮れてきたし、モンスターも出るからと洞窟に招かれた私(と黒毛玉)はロックというトレジャーハンターと、元帝国兵らしいティナを紹介されたんだけど、何故かエドガーが発した元帝国兵の部分にロックが慌ててた。

帝国に恨みを持つ者が少ないこの時代。
帝国兵だったらボコる発言をした私もそういう人達だと思ったんだろう。
きょとんとした顔のフィガロ達と、思わず吹いた私にロックは眉を顰める。
ティナはよくわからないのか首を傾げてこっちを見てた。

「私もね、元は帝国の人間だったんだよ。約20年前に逃げたから、実質的にモルモット生活5年の間だけだったけど」
「モルモット?」
「魔導士を造る為の偉大なる犠牲さ」
「酷い……」

しょんぼりしちゃったティナ。
あれ?ここは凄い皮肉だな、って誰か突っ込む所なのに……

「……彼女、冗談通じない子だった?」
「今のはアレースが悪い」
「一瞬でも帝国の奴らと間違えてごめんな」
「何で責められて謝られてんの私」
「頑張れアレース」

何を頑張れと言うのだいマッシュよ。

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