■ 一兵卒

「俺はエドガー、こっちがマシアス。君は?」
「……アレース」
「よろしくね、アレース」
「ん」

あの頃の私は全くの人見知りだった。
帝国を抜け出して、人形状態から人間らしくなるのに大体2年。
帝国にいた頃からお世話になってた人に、フィガロに連れて行かれたのがそれからまた2年後のこと。
エドガーとマッシュの父親であり、フィガロの王であるスチュアートと話があるからと、双子の下に置き去りにされた私は2つ上の二人に構い倒されて死にかけてたのが懐かしい。

何度かフィガロに通い、毎度双子の下に預けられていた私は何時までたっても慣れなかったのをよく覚えている。

「アレースには三つ編みが似合うんだ!」
「ちーがーうー!お団子に三つ編みのがいいの!」
「! それだ!」
「お花挿してもっと可愛いくしたげるからね」
「(何も言ってない)」



「こっちの水色のローブがいい!」
「これ!ピンクのワンピース!」
「! 兄上凄い!」
「ばあや!アレースにこれ!」
「はいはい」


双子のテンポの良い、本人丸無視の会話に気圧されて何も言えないままの私は、見守る側に回っているばあやさんの手によって気付いた時には着替えが終わっていたことも少なくはなかった。

物の見事に出来上がった私を見せる為に王様達の所に行こうとしたのだけれど、当時まだ義手を着けていなかった私の唯一の右手をどっちが繋ぐかでジャンケン大会が繰り広げられ、それをじっと待つということもよくやっていた。

「マシアス大丈夫?」
「うん。まだちょっと怠いけど平気だよ」
「じゃあ今日は1日お布団から出られないね」
「平気なのに……」

タイミング悪く、マッシュが風邪を拗らせ、エドガーは勉強中の時もあった。
そういう時は大概エドガーと勉強だったのだけれど、義手が着いてからはマッシュの看病が大半を占めていたと思う。

「アレース、名前呼んで?」
「マシアス?」
「もっといっぱい呼んで?」
「マシアス、マシアース、マーシィ、マシュー、マッシュー」
「あはは、どんどん変わってってる」

この後からだったかな?
マシアスがマッシュというニックネームを気に入っちゃって私にはマッシュで呼ぶようにって言ってきたの。
今ではマシアスよりマッシュで通っちゃってるみたいだけど。

「エドガー君はアレースのことどう思う?」
「妹ができたみたいで嬉しいです」
「マシアス君はどうさね」
「えと……」
「……?」
「「(お?)」」

珍しく5人でティータイムを楽しんでいる時、徐に投げ掛けられた質問に顔を若干赤らめながら私をチラチラ見るマッシュと、ニマニマしだす大人2人。
首を傾げる私とエドガー。
あの現場をカオスと言ったんだろうな。

「これ、もらってくれる?」
「人をこれ扱いしないで」
「まあまあ。でもアレースちゃん好い子だし、どうだ?マシアス」
「う、えぇえぇ??」
「??」

突っ込み所の違う私に茹で蛸のように真っ赤になってしまったマッシュと、11歳の頭じゃわからなかったのか最後まで首を傾げていたエドガー。

王様と脱帝者が何言ってたんだと今では思える。
そして何で一国の王様と高が一兵卒の脱帝者が仲良くティータイムしていたのか、よーーーーく思い知らされた。


「エドガー様!どうぞこ、ち、ら……へ?」
「ん?」
「藤の髪に左に渡る負傷痕……リ、リターナー創設者様の、カルマ様のご令嬢様でございますよね?」
「…………眠い」
「「(話の逸らし方は変わらないな……)」」
「え、アレースがご令嬢?女!?」
「アレースは女の子よ?わからなかったの?ロック」

面倒臭い時は大体寝たフリ眠たいフリ。
あの人の名前が出てきたけど、リターナーの創設者だったなんて聞いてないし、自由に使えと言われたのは今、私がオーナーをしているあの店だけだ。
確かに先代の時から帝国嫌いの人がちょこちょこ来ていたけど……私は知らん。

それよりロック。お前、覚悟しとけ。
静電気が起こりやすい体質にしてやる。


眠たいならおんぶしてやるよ、としゃがむマッシュに一言お礼を言ってから背負ってもらったんだけど、初めてのおんぶが意外にも心地好くて、私はいつの間にか本気で寝てた。




「アレースってど、ど、どんな男の子が好き?」
「?、マッシュもエドガーも好きだよ」
「んん、違くって……えと、お、お婿さんにするならどんな人がいいかってこと」
「私の左腕や目を憐れまない。身も心も強い人、かな」
「っ!じゃ、じゃあ!お、俺がアレースを守れるくらい強くなったらお嫁さんになってください!!」

ダダッ、ドテッ

「「!」」

マッシュが言い終わったと同時に雪崩れ込むように入ってきたカルマさんを一番下に王様とエドガー。
廊下にはばあやさんが呆れ顔で雪崩山を見ていた。

ニマニマと笑う3人に一世一代覚悟の告白を聞かれてしまったマッシュは両手で顔を隠し、林檎のように耳を赤らめて部屋を出て行ってしまう。
私は追い掛けようとせず、3人に静電気を流した瞬間、



起きた。

けど目の前には逞しい胸板。私の頭の下には彼の腕。
少し上半身を浮かせて辺りを見回してみれば、近くの椅子に私のコートが。
そしてベッドが6つばかり。

……寝るなら他のベッドでもよかったのでは?

静かに寝息を立てて寝ている彼を起こすのは忍びないので私が出ようとすれば、脚が絡められていて抜け出せそうになかった。
腰の辺りには腕も回されていて完全に抱き枕状態だ。

「あ、起きた?」
「ロック……これはどういう状況だ」
「どう、って言われてもなぁ……マッシュに背負われてるアレースに気付いたバナン様が慌てて寝室まで案内させて、そっからマッシュが中々戻ってこないから様子見に来たら、って感じだな」
「成る程」

私の一番知りたい部分は知らない訳だ。
会議があるから起きてほしいんだけど、と苦笑するロックに会議って何?って聞こうとしたいいタイミングで、もぞもぞと動いたマッシュに締め殺されそうになった。こう、ギリギリッと腰ってか腹締め上げられて内容が……

結局ロックがそれを止める為に彼を起こしてしまい、起こさないでおいてあげようっていう私の計らいが無駄になってしまったのだが、あとでお礼でも言っておこう。

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