■ 付き合い

「気付かれたか……作戦を急がなくてはならん!!」
「ロック!」
「わかってる。サウスフィガロで内部から敵を足止めする作戦だろ?」
「お前の特技を見込んでの作戦だ!頼んだぞ」

成る程、トレジャーハンターという職業はそんなこともできるのか、その技術欲しいな。
今度うちの店に講師としてロックに来てもらおうかな、なんて考えてるうちに彼は本部から出て行こうとしていた所だったから、ちょっと乱暴に彼の襟を掴んで止めてしまった。
だけどこれで男と間違えてたことと、さっき髪型を笑ったことはチャラにしてやろう。

「ちょっ、アレース!引き留めるならもうちょっと優しくしろよ!」
「それはごめん。だけどもそれを根に持つ前にこれだけは覚えとけ。鎖骨に翼のタトゥを入れた茶パツのメイドはうちの従業員だ。私の名前を出せば手を貸してくれる。……忘れるなよ」
「わかった。鎖骨に翼の茶パメイドだな。……あっ!俺も言うの忘れてた!」

おおう、不意打ちに目の前で短い大きな声出されたからびっくりした!

私の隣にいたティナの手を取ったロックは、何故手を取られたのか分からず、キョトンとする彼女とは反対の真剣な顔をして言う。

「ティナ。俺が戻るまで大人しく待ってなよ。特に……手が早いので有名などこかの王様には気をつけろよ」
「ロック!」
「安心しろ。ロックの分まで私が守るよ」
「それは頼もしいな!じゃあ、また!」

言い切り逃げるように去ってゆくロックをエドガーは追いかけるが、寸での所でひらりと逃げられてしまっていた。
ロック、身の熟し方が上手いなぁ……って、あら?感心してるのは私だけ?
ティナは訳がわからず私のコートの裾を掴み、マッシュに至っては珍しく呆れた目でみている。

「兄貴……まだそのクセ直ってないのかい?」
「昔遊んでもらってた面倒見のいい兄ちゃんと久々に再開したら軟派野郎になってた、ってなんかショックだな」
「お前達!今はそんなこと言ってる場合じゃ」

ゥオッホン!

……あら?

わざと強調するような咳をした本人、バナンさんから責め立てるような視線が伝わってくる。
うーわー、絶対怒ってる。話を脱線させかけたから怒ってるよ。
今一繰り広げられる会話の意味がわかっていないティナからの助け船を願ってみたけど無駄っぽい。
小首傾げる姿も可愛いけど、頼むから理解して!

「こっちはどうする?エドガー」
「「(よし!)」」
「(私か!!)レテ川を抜けてナルシェに逃げるのがいいでしょう。炭坑で見つかった幻獣の事も気にかかります」
「うむ。では裏口にイカダを用意させよう。少々危険だが、他に手はあるまい」

名指しで睨まれても怯まずに対応しているエドガーって凄いね、なんてマッシュと話してる間に、エドガーはまだついてこれていないティナにナルシェに来る事を諭していた。
我らが兄ちゃんはホント、要領が良くて頼れるね!
だけども拳骨は痛いよ!

一発ずつ拳固を食らった私とマッシュは、エドガーに言われた通りに決められた役割を始めた。

私の役割は持って行くポーションの個数や必須アイテムと置いていく残量の調整だったんだけど、高が確認にそんなに時間がかかるわけでもなく、あっという間に終わって、あとはバナンさんへの報告だけになっていた。

「ティナ。バナンさんが何処にいるか知らない?」
「確か外に出て行く所を見たけど、どうかしたの?」
「物資の在庫報告だよ」

メモ程度に書かれた紙を二三度ひらひらさせればお疲れ様なんて労いの言葉が返ってきた。
うわ、なんか嬉しいぞ。

店で色々とやろうとしたら全部、私達に任せてアレースさんは休んでてください。だとか、書類終わらす暇があるなら寝てください!とか普通とは違う追い払い方されてたもんなぁ……
仕事関係で労われたの初めてかもしんない!

いいえー、なんて自覚できるほど弛みきってるだろう表情のまま、ティナに互いに頑張ろうね、って声を掛けてから出入り口に向かって歩き出せば、後ろからありがとうって声が聞こえてきた。
ありがとうを言うのは私のほうだよ。

ほくほくとした気持ちのままバナンさんを探し歩き、見付けた後ろ姿に顔だけは引き締めて近付く。
流石に弛んだ顔なんかで会ったら失礼っしょ。

バナンさん、そう呼ぼうとしたら逆にアレース"様"だなんて呼ばれてしまった。
背後から近付いてたし、気付いてないもんだと思ってたのになぁ。

「ご令嬢とか様付けとか、私はそんな偉い人じゃないですよ」
「いえ、貴女様はリターナーの創設者であるカルマ様のご令嬢。カルマ様よりこのリターナーを任される折、アレース様の事も聞かされておりました」
「……私の知ってるカルマさんは緩くて皆を纏めれるような人じゃありません」

ただの元一兵卒で、料理は焼くか茹でるしかできず、他の家事の腕も一般的な腕前のちょっと腕っ節の強い姉のような母親のような人がドマ国と手を結ぶくらい大きな組織の創設者だなんて信じられない。
本当だとしても疑っちゃうのは仕方ないよね。

「カルマ様はよく、辛いものは見せたくない、できることなら毎日笑顔で過ごさせてやりたい。と呟いておりましたよ」

そう言われ、何も言えずに逸らした視線の先、林の奥に、無造作に短くされた金髪猫っ毛を持つ、濃緑色の軍服を着た女の人が、今にも泣きそうな笑顔でこちらを見て何かを言ってるような気がした。


「ごめんなんて謝る私を許してほしいさね」

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