Sorrow in the Deck 作られた【もの】 「黒のワルツ2号……本当に、お母様が放った者なのかしら……?」 「何をおっしゃいます!あのような者の言葉に信ずる所などありませぬ!王女というだけで不届きなことを企てる者共は城から離れる程、いるものであります」 2号がいた場所を見詰めているダガーは気付かなかっただろうけど、ちらっとスタイナーがジタンを見ていたので軽く殺気を飛ばしておいた。 うん?敵(私)は超間近にいましたけど? 身の代金目的でダガーを拐ったとでも思っているのかな?スタイナーは。 残念ながら盗賊タンタラス団は金持ちから金目の物は盗んでも、人質取って身の代金請求したことなんて今の一度もない義賊なんだよ。 リンドブルムの住民からもそこそこ評判はいいんだから、そこらの悪党盗賊と一緒にしてほしくないんだよね。 スタイナーを挟んで向かい側にいる、私の表情に気付いたダガーがハッ、として話しを進めた。 「わたくしの素性が周りに知れてしまったということ?」 「どこぞの誰かさんが人の気も知らずにピーチクパーチク騒ぎ立てるから見付かったのかもなぁ?」 「うぐっ」 「エフ、それ以上はもう言うなよ。おっさんがエフになにか言われる度に拒絶反応起こすようになったら堪んないからな」 抜き身のまま持ってた刀の刃毀れがないか確認しながら毒突けば、少々空気と化していたジタンに止められてしまった。ちぇっ。 あ、あとでジタンから手入れの方法聞かないと。 それとどうでもいいけど、この場に留まってたら飛空艇が浮上するときに巻き上げる風で飛ばされそうなんだけど、って言ったらジタンにもっと早く言えって怒られた…… いやいや、音に気付いてよって言ったら叩かれもした。 理不尽だ。 荷物が増えても皆の中で一番足が速かった私が先に乗り込んで、スタイナーを引き上げている間にシュトラールがビビを掴んで飛んでくる。 ちょっ、シュトラールすげぇ。 「わざとじゃないんだし、そんなに怒んないでも……」 「そのことはもう結構です」 「ほらほら、地がでちゃってる」 梯子を登る前は普通だったダガーが機嫌を悪くして上がってきたのだが、どうやら原因はジタンらしい。 どーせ梯子登ってる最中に尻触ったとかなんだろうね。 全員乗れたことを確認した後は、無断で乗ったことを詫びてくると言い残して中に入って行ったスタイナーのあとを追って中に入った。 そこにはやっぱり黙々と作業を行う、もしかしたら職人肌なのかもしれない彼らがいて、やっぱり私の存在には気付いていないようだ。 「えっ!」 「うそ!?」 続いて元気良く入ってきたビビとダガーだったけど、彼らを見て様子が一変、ふらふら彼らに近付くビビにダガーが軽く悲鳴を上げた。 彼らが言葉に反応しないと知らないビビが懸命に話し掛けに行ってるけど、何故か教えてあげることができない。 似て非なるとは思っていたものの、実際並んでしまうと兄弟的な感じで似ていると思ってしまう。 それの所為なのだろうか? 顔を真っ青にしたまま、まだジタンが残っているであろう出入り口に走るダガー。 ビビも、ダガーも、ジタンも彼らの事を知ってるらしいけど、いつの間に知ったんだろうか。 ジタンもまた、彼らの姿を見て驚いた。 「あの」 「驚いたな……動いてる」 動いてる…って、感情や魂的なものはなさそうだけど、彼らだって生き物なんだからそりゃあ動くだろ。 「ダリの地下で作った人形を同じ人形が運んでいるのか」 「?、ダリの地下?人形?」 「そういえばエフは行方不明になってて見てなかったんだな」 あの村の地下でこいつらソックリの人形が作られてたんだ。 ジタンの説明が若干理解できない自分がいる。 私が見たのは原料が霧っぽい卵だけだ。 もし、あれがベルトコンベアで流された先で孵化させられ、彼らが産まれてきているのならば、それは【人形】じゃない筈。 んん?彼らは産まれたばかりで自律心がまだ芽生えてない赤子同然だってことなのか? 何をすればいいかわからないから【親】に言われたことだけをやってる? 同じことを繰り返してるだけでは成長せず、違う刺激を与え続けて一定量を超えたところで、やっとビビみたいに自律心と感情が芽生えるのだとしたら……? ……いかん、キャパオーバーする。 「……悪いけど、先に上に行くね」 「あ、俺も行く!放っておくと城に着いちゃうからさ」 「……」 「ビビのこと、頼むよ」 ジタンの事を待ってたって並んで梯子を登れる訳じゃないし、先に行ったらスタイナーがこっちに向けて尻を突き出してた。 ……間違えた、orz体勢になってるだけか。 何かブツブツ言ってるし、こんな感じのやつの中には急に襲ってきたりするやつが混じってたりするから話し掛けるな近寄るな、ってブランクに言い聞かされてるから近寄んない。 彼らの仕事の邪魔をしないように船尾まで行き、そこから離れてゆくダリの村を背景にシュトラールの飛行練習を眺めていれば、盗賊特有の癖になってる控えめな足音が。 「おっ、産まれたばっかなのにもうそんなに飛べるのか!」 「ギッ!」 「……」 「……なんか元気ない?」 「別にー」 ちょっとブランクのこと思い出して寂しくなっただけだし。 なんて言ったら背後から忘れたことないのに思い出したのか?とか聞こえてきたから取り敢えず撃っといた。 自分の半身を忘れるわけないだろバァカ。 「私にかまけてる暇があるなら、ちょっとは舵を切った方がいいんじゃないの?」 「おっと、そうだった。エフ!揺れるから気を付けろよ」 「心配御無用」 産まれたばかりの頃から飛空艇に乗ってたんだから急転回ぐらいじゃよろけたりしない程のバランス力は持ってると自負してる。 何より、母さんの操縦むっちゃ荒かったし。 シートベルトなかったら吹っ飛ぶくらいの操縦かましてくれた時はもう、怖かった。 あの時に比べたら、今の揺れなんて何ともない。 カションカションなんてジタンとは全く正反対の喧しい足音と気配に、起動したのかブリキ野郎、なんて心の中で毒突きながらも何かあっては危ないからとシュトラールを呼び寄せておく。 二人が舵を取り合った所為で飛空艇が落ちて再び魔の森にー、なんてことになったら墜落の衝撃で離れ離れになる確率だってあるからね。 「き、き、き、き……」 オイルが切れたのをわざわざ擬音語で訴えているのかスタイナー。 ……違うことはわかってる。 ジタンが何か言ってるみたいだけどエンジンの音で全く聞こえなかった。 まぁ、スタイナーでも挑発したんだろうね。 素っ頓狂な声出して入ってったし。 スタイナーのバカでかい声を聞き付けて来たかのように操縦室にわらわら集まってくるソックリさんな彼ら。 一人は私のことをじっと見詰めてきてる気がするんだけど、何か言いたいのだろうか? 言いたいことが伝わらないとわかったのだろうか。 次第に船首の方へと行ってしまう彼らの背中は覚悟を決めたようにも見えた。 意思でも芽生えたとでもいうのか? 上がってきていたビビとダガーの前に立った彼らは前に手をかざして、まるでビビが黒魔法を使う時のようなポーズを取っている。 その手に小さな火が灯っているのを見るに、黒魔法が使えるみたいだけど、その前に稲光が彼らを弾いた。 巻き込まれそうなのにも拘わらず動かないでいる二人を回収して─── ──少し掠った。 肩に痛みが走るが、それでも立ち止まる程の痛みではない。 ビビとダガーを操縦室に押し込んで、割れるガラスを弾きながら私は、荒れ狂う稲妻で吹き飛ばされる彼らの最期をただ、安全な場所から見ているしかできなかった。 |