Sorrow in the Deck
下等で下劣、対する下衆


甲板に叩きつけられる者、そのまま吹き飛ばされて宙に落ちる者、操縦室から飛び出し縁から身を乗り出して下を見たらまだ眠ったままの彼らも箱から投げ出されて地面へと吸い込まれていってる。

ダブる視界。
落ちてゆく彼等の一人が助けを求めるようにこちらに手を伸ばしている姿が小さな子供の姿と被り、視界の端に映った自分の手首に、あるはずのないカラフルな数本のミサンガがある。

嗚呼、これは、きっと、あの時の父さんの視点だ。
真っ先に動いた方向は落とした張本人。
背負う銃より捨て置かれた刀を手に取り相手を───


真っ先にすることが敵を殺すことかよ……





荒れ狂う稲妻の中、徐に縁へと向かい落ちてゆく彼らを一心不乱に見続けている時点でエフはおかしかった。
縁に向かう前に止めておけばよかったんだ。

瞬時にヘイストを唱えたエフは、瞬きする間にその場に背負っていたライフルを落として未だに止むことのない稲妻の中心、つまり黒のワルツ3号に向かって斬りかかっていた。
何処から仕入れたのかは知らないけど、剣が全く似合わないエフに見た目でもしっくり馴染んでる細身の刀を3号に向かって横にひと振り。
避ける為に魔法を中断させたのを切っ掛けに固まっていたビビが半ば自棄糞気味に叫びながら3号とエフに向かって行く。
俺の制止も聞かないでそれに続いて行ってしまうおっさん。
クソ、ただでさえストッパーのブランクがいない所為で無茶しようとするエフを抑えるのでいっぱいいっぱいなのに、これ以上無茶するやつはお断りだ!

三人の許に向かおうと操縦室を出ようとする俺の後ろから聞こえてくるトサリという軽いものが落ちる音に、まだダガーが残っていたことに今更ながらに気付いた(スマン、ダガー)
惨い出来事を目の当たりにした所為で顔を真っ青にさせて口元を押さえ、腰を抜かしているダガーには悪いけど、やってもらわなければいけない仕事がある。

「ダガー!」
「は、はい」

しゃがみこんで目線を合わせる。
涙目になりかけてるけど、これだけはダガーに決めてもらわないと始まらないんだ。

「黒のワルツは俺達がなんとかする。それまで舵を支えててくれ。これから危険は増えるだろう。でも今なら、まだ戻れる。このまま国境の南ゲートに進むか、舵を戻して城に戻るか、ここはダガーが、自分で決めるんだ!」

不安げな視線が俺の目を見る。
そりゃそうだろ。
今まで何不自由ない危険もない城の中で大事に大事に育てられてきた姫様が、エフに聞かされていて覚悟していたとしても怖いもんは怖いだろうな。
エフに置いていかれたシュトラールをダガーの腕に抱かせて視線は逸らさない。

「どっちにしても俺も、エフもついてる!船をふらつかせないように頼んだぜ!」
「ピィ!」
「おっと、シュトラールもついてるってさ」

ダガーの胸に擦り寄ってるシュトラールを羨ましいなんて思ってないからな。
そんな場合じゃないってことはわかってるからな。

腕の中に視線を落として柔らかく微笑み頷くダガー。
決心はできたようだ。
もう、大丈夫。




「どうして!?どうしてあんなに酷いことを……仲間じゃないの!?」
「あのような下等な奴らと区別がつかんとは、貴様もまた愚か者というわけか!」
「彼らが下等ならお前は下劣か。成る程」

俺が合流した時、少しは理性を取り戻したらしいエフの毒舌が発動してた、が、おっさんが泣きそうになってるから止めてやってくれ。
おっさんの涙目なんて可愛くもなんともない。

「な、仲間でなかったにしても!お主がしたことは許しがたい!」
「ここで許したら虐殺行為を見過ごす事になるから当たり前だろ?ん?」
「ディレーネ!お前、もう黙ってろよ!」

流石に温厚な方であると思う俺でも怒るぞ。
エフは横にいるおっさんを一度見ろ。orz体勢のおっさん見たら自重しようと思えるようになるだろ。
斬りかかりに行く代わりに殺気を飛ばしまくってるエフとビビの間に滑り込む。
すると俺に気付いた3号はエフに負けないぐらい殺気を濃くして俺達を品定めするかのような視線を向けてきた。

「お前ら、一体何者なんだ?」
「ほう……取り巻きが揃ったか。これは好都合だ」
「答えないつもりか!?」
「死に行く貴様らが何を知っても無駄であろう?カカカカカ!」
「冥土の土産、という言葉があるが……下劣なお前は知らないか」

絶好調だなエフ……
だけども挑発するのは止めてくれ。
そして俺達が負ける前提で話しを進めるのもやめろ。

これまでに二度、ワルツと闘ったが、一度目はエフの持ってた火炎瓶と魔力。
二度目はエフの不意討ち。
どちらもエフのお陰で倒せたようなものだった。
バクーからもらったエーテルも弾ももう残り少ないだろう。
刀を使おうにも慣れていない武器ではいつか隙ができてしまう。
出血して血が減ってるだろうし、エフに無茶はさせられない。

「俺達がやらないとな……」
「任務を邪魔する者は全て排除する!」

その言葉と同時にビビがトランス状態に入った。
エフは見たことないんだったな。
声を出さずに目を見開いて驚いてる。

俺的にはエフにしかできないミストナックとかいう技の方が凄いと思うんだけどな。
指笛吹いただけで水もない場所に津波起こしたり、桜吹雪が収まった頃には敵が切り刻まれたり、一体どうなってんだっての。

「魔法じゃあっちの方が精度も威力も上だろうな」
「私は多種が使えるだけ。ビビは初期魔法だけだからね。ジタンの素早さで攪乱してその間にスタイナーが致命的な一撃を入れるって方法が一番だと思うけど」
「「おう/うむ!」」
「ぼ、僕は?」
「あいつ、プライドだけは一流らしいからな。どんなに弱くてもいいからしつこく数当てろ。詠唱中は私が盾になる」
「うん!」


こういう適切な指示をするからマーカスにこっそり姐さんって呼ばれるんだよな。
ブランクといる時のフラフラフワフワした感じとか一切ないし、何より一人一人の長所を尊重して援護もしてくれるものだから俺達も動きやすい。

ただちょっと自己犠牲的な所が玉に瑕だけどな。


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