Village of Dali
椅子上の思い


風車を見ようと駆けて行こうとするビビをジタンが止め、村に入ってすぐの所にあった宿に入れば、亭主であろう男はカウンターに突っ伏して経営する気もなさそうに鼾をかきながら気持ちよさそうに寝ていた。

「寝てるのか?」
「いや、見りゃあわかるっしょ」

ペシペシ

「すいませーん」

ベシッ!

「(ディレーネ……容赦ないわね……)」
「(音が痛いよ、エフ)」

派手な音がしたものの、そう痛くなかったのかゆったり起きる亭主。
こいつマジやる気あんのかよ、仕事舐めてんじゃねぇぞおい。(盗賊は職業じゃないつったヤツは表に出ろ)

私の苛立ちに気が付いたのか背筋を伸ばし、身形を整え直した亭主は私に宿帳を書くように言って、私の後ろに続くメンツに視線を移す。
と、書いてる私には見えないが、誰かに目を奪われたらしく、唸りながらカウンターから身を乗り出してきている。

こんな辺境の村でガーネット姫だとわかる者がいるとは思わないが、何が起こるかなんてわかるわけもない。
内心冷や汗をかきつつも、なんとかその場はジタンによって助けられてどうにかなったが……リンドブルムまでこんな緊張感と仲良くしなきゃならないとかマジ勘弁。

小さな村に唯一の宿屋とあってか、部屋は大部屋でベッドも4つしかないときたものだから、自然と足は隅に追いやられたように置かれていた椅子へと向かっていた。

「あの、ジタン?私の泊まる部屋はどちらでしょうか?」

「ん?そこだよ。皆で泊まるんだ」

そうだった。
箱入り娘なガーネット姫もといダガーは共同部屋なんてものも、雑魚寝なんてものも知らなくて当然だ。
普通に忘れてたよ。

「ダガー、ベッドを共有するようにいってる訳じゃないから妥協して」
「ディレーネ!!」

部屋の中から声を張り上げて言えば、ちゃんと聞こえたらしいダガーが部屋に飛び込んできてその腕力と握力の少ない拳でポカポカと殴られた。
けど、全然痛くないし、真っ赤になってるからつい、からかいたくなる。

入ってきたジタンがそんな私達を見て一言、元気だなぁ……なんて呟くものだから一瞬、おっさんに見えたけど言わないでおこう。
ヘタをしたら、俺より年上のお前はどうなるんだ?って反撃を食らってしまう羽目になる。

───と、空気が変わったことに気付いた私達は変えた本人であるジタンに目を向けた。

「寝る前に教えてほしいことがあるんだ。城を出て何処に行くつもりだったんだい?」
「あのまま劇場艇が飛べば今頃は……」
「隣の国、リンドブルムに着いていただろうね」
私の助言にはっ、とするジタン。
本来の目的であるガーネット姫誘拐が終わったら劇場艇はリンドブルムに飛ぶはずだった。
国をある事情で出たがっていたガーネット姫に、隠れて乗り込めば国を出れると教えたのは私で、結局のところ彼女と私達の目的は成功の道を辿りつつある。

「アレクサンドリア王国を出るつもりだったのか!」
「そういうこと」
「ギィッ!」
「ははっ、シュトラールも卵の殻ん中から二人の話しを聞いてたんだな。南ゲートの抜け方をダガーに教えたのはエフだろ?」
「ギッ!」

私の頭に乗っかっていたシュトラールが覚束ない飛行を見せながらジタンの頭に飛び移って肯定の鳴き声を上げる。
疚しい発言はしてなかったとは思うけど、聞かれてたとなるとちょっと恥ずいぞ。

「黙って聞いておれば勝手なことを次から次へと!姫様、このような者の言葉、聞いてはなりませんぞ!」

あ、五月蠅いのが起動した。

「魔の森のように、いつまた危険にさらされるやもしれませぬ!」
「でもあれって誰かさんがボムに気付かなかった所為で劇場艇が壊れて落ちたんだよなぁ」
「うっ……!」
「ダガーも一生懸命声張り上げて教えてくれたのに見向きもしなかったのは誰だったけか?」
「くっ……」
「あぁ、それでもって?ジタン達は必死に爆風からダガーを守ってたのに頭隠して一人で震えてたのはどこの隊長さんだったかなぁ?」
「そ、そのくらいで許してやってくださいディレーネ」

黙らせてやろうと言い始めた嫌味は優しい優しいガーネット姫様に止められてしまった。
もーちょい言えたのになぁ……

私が機嫌を損ねたのを察したらしいジタンが明日も早いからビビを見習ってさっさと寝よう、って話しを終わらせてしまったから仕方なく椅子の上で丸まろうとしたらダガーからちょっと待ったを食らった。
……さっきからなんだよもー。

「ベッドが一つ足りませんが、どうするのですか?」
「……説明はジタンから」
「俺かよ……えっと、エフはブランクに言われないかぎり椅子とかソファーでしか寝れないんだ」
「でも、それじゃ休めないのでは……」
「さぁ、休めてるのかどうかは本人に聞いてみないと……って、」

俺に説明させといてエフは先に寝ちまったらしい。
片膝を抱えこんで顔を伏せるその姿勢は正にエフの就寝スタイルだ。
いつもならばああやって寝てるエフを見付けたブランクが叩き起こすか、抱えてベッドまで運ぶんだけど、今日はそのまま。


今思うとエフの寝る時の姿勢って、飛び起きてすぐに行動できるような体勢だな、なんて思ったり。








眠るのが怖いんだ。

これが全部、私の都合いい夢で、私の記憶から創られた世界で、ホントは何も、私自身でさえも存在しないものだとか思ってしまうと眠れなくなる。

もし、深く眠ってしまって次起きた時に全部跡形もなく消えてしまって、今と全く違う現実を歩まなければいけなくなった時、私は前に進めるのだろうか。


きっともう、無理だ。


ブランクに見付けてもらう数日前に、私は父さんを狙う空賊に誘拐され、両親の前で空中へと放り投げられた。
母さんの白いワイバーンが必死になって私目掛けて急降下してきていたけど、そこからどうなったのかはわからない。
間に合わなくて地面に叩きつけられ死んで、この月が二つある世界に来てしまったのか将又、助かったけど意識不明のまま夢を見ているのか……
シュトラールという存在がやってきてからますます解らなくなっている。

最初は帰りたかった。
でも、ブランクのあとをついて回って、一緒にタンタラスに入って、仲間が増えて基地が手狭になったからってアパート借りたら何故だか私よりブランクの私物の方が多く置かれるようになってて、一緒にいる時間が掛け替えのないものだと気付いた時には互いの心が通じるようになってて、思ってた事が一緒だったとわかった時にやっと元の世界の未練がなくなってたんだ。
残ったのはこの世界に留まっていたいという執着心。

両親や友人と縁を断ち切った訳じゃない。
彼らは大丈夫だと信用しているからこっちにいたいとハッキリ言えるんだ。


それでも、世界はちっぽけなヒュム一人の意思なんて無視して勝手に動いてしまうから、私は引き剥がされまいと浅い眠りのまま気配が離れて行ってないか確認しながら眠るんだ。

意識が切り離された所為でブランクの傍から離れなきゃならいけなくなるなんて御免だから。


[ 11/34 ]

[prev][back][next]




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -