第1話 繋がる
今この世界は、大きな勢力を前にどうにか生きている。
日に日に強くなっていくモンスター、それらが国を襲うようになり、さらには隣国との争いは未だに絶えない。

そんな中ここマルティア王国は、国内での格差やモンスターと戦いながらも、一見平和な生活を送っていた。






「悠一郎!もうすぐつくぞ、マルティア。」

「やっとかぁ〜…腹減ったあ…」

「お前なあ、飯屋行くけど、ほどほどにしてくれよ?」

「まあ、いいじゃん。最悪クエスト受ければお金もらえるし。」

「そーだけど…こいつそう言うと容赦ねえじゃん」

「確かに!マルティア大きいからクエストもいっぱいあるよな。よっしゃ!稼ぐぞー!!」

「ほらあ!」

「なんかごめん…梓…」

「……悠一郎、目的は忘れんなよ。」


ま、心配してないけど。
心の中で孝介はそう呟きながらも、クエストに気合をいれる悠一郎の頭に手をおいた。

分かってるって〜。呑気そうに言ってるけど、しっかり分かってるようだった。孝介は溜息をついてから足を速めた。








「いつも、ありがとう!シン さんっ…」

「全然いいよ。最近勉強熱心だね。」

「う…おれ、自分の……力、が、分かった 気が、するから…」

「…?力?」

「な、なんでも ない、よー!また、ね!」

「え、うん。またね、廉!」


(廉が最近借りてるのは、歴史書や魔法書、生物学書。あんまり同じ部類じゃないから。廉が何を背負ってんのか分かんないな…。)

辰太郎は椅子にもう一度深く座り込んで、廉がここ最近借りている本のリストに目を通した。
しかしさすがに本のタイトルや部類だけでは、何を勉強しているのか皆目見当がつかず、辰太郎は考えるのを諦めた。
何より、別に何か悪いことをしでかそうとする子じゃない。
それだけは絶対の自信があった。

それに、廉は、弱いけど強い。


「……あ、それより団長さんに頼まれてたもの調べなきゃ。」


辰太郎は慌てて仕事に取りかかった。








「ついたー!!」

「叫ぶな。」

「へ〜。ここがマルティアねぇ。意外と栄えてるんだ。」

「はいはい。まずは飯だろ?」

「よっしゃ!飯ー!!」


わいわいと賑わう商店街は、見ているだけで楽しかった。活気付く魚屋、八百屋。昼間から酒を飲み陽気に歌い笑う人達。
表向きはどう見ても、栄ている立派な王国だ。

だけど裏では、可哀想な奴隷たちや貧富の差が激しい汚れた一面があることは、言わずもがなみんな分かっていた。

だって国民全員が平和な国なんて、この世界に一つだってない。



「あそこにするか。」

「お!飯屋!……あ。」

「…?」


悠一郎が見たのは、躓いて本を盛大にぶちまけた…
(((女の子…??)))


「大丈夫か?」

「あ!す、すみませ、ん……」

「っ!!」


そのとき悠一郎は、初めて運命という言葉と
「一目惚れ」という言葉を、身に染みて感じた。



「す、すみませ、ん!……ありがと、う…ございます…」

「…………」


廉は、ジッと見つめられる瞳を見て、ドキリとした。
これだけ、キレイで純粋でキラキラした心を感じたことがなかったからだ。

初めて見る真っ白で強い心に、廉はドキドキして一瞬身体を強張らせた。
でも、早く行かないと、ご主人様に怒られてしまう。

廉はすぐに礼を言って、本をかき集めた。
まだ固まってる目の前の男の人を、チラリと見て走り出そうと、したが…


「待って!!」

「っ!!…な、」

「なぁ!名前は…「キャーーー!!!」


悠一郎の必死の言葉は途中で途切れた。
声は、みんなで行こうとした飯屋の方からしたようだった。
周辺を通っていた人達は、悲鳴を聞き混乱に陥る。


「何があった!?」

「行くぞ!」

「っ!…名前、また後で教えてな!」

「あ!あ、の………行っちゃった…」






4人が駆けつけたが、人が混乱しすぎて何が起こっているのか分からない状態だった。


「すみません!何があったんですか?」

「ラルデ家の奴らが暴れ出したんだ!凶暴で手に負えねぇから、あんたらも逃げた方がいいぜ!」

「…ありがとうございます。」


勇人が聞いてくれたおかげで状況がつかめ、4人はホッと落ち着いた。とりあえず、死人はでていなさそうだ。


「俺が行く。」


何故か少し怒っている悠一郎が、真剣な面持ちで飯屋に入ろうとしたが、


「お前が出るまでもねぇよ。物壊しそうだから、やめとけ」

「でも!」

「お前はクエストのために体力残しとけ。ま、大したことねえ奴らだけどな」

「………分かった。孝介に任す。」

「おお。さがってろ」


人が少なくなった飯屋に入ると、いかにも柄の悪そうな数人の男達がいた。
孝介は怯むことなく堂々と男達の前に立つ。

何人か、怪我で倒れている人達がいるみたいだ。


「おいおーい、弱い奴らの次はガキかぁ?笑わせんなよ」

「…」

「ナメんじゃねーぞ!!」


何人かから一斉に攻撃がきたが、軽々とよけ孝介は倒していく。

よし、この調子だったら楽勝だ。
そう思ったのも束の間……


「おい!動くんじゃねえ!」

「っ!……きたねえぞ…」


あろうことか、まだ小さな女の子の首筋にナイフをあてていた。
女の子は恐怖で、お母さん、と泣き叫んでいる。

最悪だ。気付かなかった。

孝介はチッと舌打ちし、動きをとめた。
下手に動けない。どうでるか…


「お前らもだ!動くんじゃねぇ!」


ゆっくり近付いていった勇人たちも気付かれてしまった。

どうやって助ける?
考えている間に、少女を人質にとったボスらしき男が、他の男達に、やれ。と命令を下した。


「っ!!…てめっ…」

「孝介!!」

「おっと…動くんじゃねえぞ。まずは俺の可愛い部下たちをボコボコにしたあのガキからだ!」

「グハッ!……く、そ…」

「っ、孝介っ…やめろ!」


抵抗もできず、孝介は攻撃されている。

どうする。
どうする。

梓が一瞬の隙も見逃さんとばかりに剣を握りしめた瞬間、ボスらしき人物の後ろの窓から、人が入ってきた。


「何してんだ。ラルデ。」

「っ!た…隆也!」


隆也、と呼ばれた男に首後ろを手刀され、ボスはバタリと倒れた。
恐怖で泣いていた女の子は、少し固まっていたが母親に名前を呼ばれ、駆け出した。

良かった。これで大丈夫だ。

安心、したが…


「っ!お前!よけろ!!」

「え…」


気絶間際にボスは持っていたナイフをなんと、女の子にむかって投げた。
女の子にあたると思っていたナイフは…


「っ!!」

「孝介!!」


女の子に飛び付いて庇った孝介の背中に刺さっていた。



「ラルデ!ふざけんじゃねーぞ!」


隆也は目つきの悪い目をさらに細め、怒りをあらわにし、残りの男たちを倒した。










「大丈夫?怪我はないか?」

「…!…(コクリ)」


勇人と悠一郎がすぐに孝介に駆け寄ったため、梓は恐怖と目の前の孝介の姿に固まっていた女の子にゆっくり寄って話しかけた。
言葉がでない女の子の頭を優しく撫で、笑顔を見せる。

「うん。良かった。お母さんのところに行きな」

泣きながら孝介を見つめる女の子。
しかし、ナイフが刺さり重症のはずの倒れていた孝介は、何でもないような顔で起き上がった。

「あ〜痛かった…ん?まだお前いたの?」

「え、お、お兄ちゃ…どうして?」

「ばーか。俺は頑丈さだけが取り柄なんだぜ?全然平気だよ。だから心配すんな。」

「ほんと?ほんとに?」

「あぁ。だからお前は早く母ちゃんのとこ行け。心配してるぞ」

「………うん!お兄ちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして。」


二カッと孝介が笑ったから、女の子はホッと安心した様子で、母親のもとに走っていった。

親子の姿が見えなくなった瞬間、俺たちはすぐに孝介を支えた。


「っ…わりぃ、みんな…」

「男前かよお前……無理すんな。勇人、回復魔法お願いできるか?」

「できる、けど…致死傷を治すのは、高度魔法じゃないと無理だ…まだ回復魔法に関しては俺は覚えてないよ。とりあえず応急処置はするけど、医者は探さなきゃ。」

「俺、探してくる!」

「藪から棒に行くな。さっきの人に頼もう。」

「っ!そうだよ、隆也!」

「知り合いか?」


勇人は孝介の怪我の止血をしてから立ち上がり、倒れているラルデ家の拘束を指示している隆也のもとへむかった。


「隆也!良かった、元気そうで…」

「…わりぃな勇人。お前の友達…」

「しょうがないって。大丈夫、命に別状はない。それより医者を探してほしいんだけど…」

「医者より回復魔法の方がいい。ツテがあるから手配する。宿も準備させてるから、とりあえずあいつ運ぼう。」

「な、何から何まで、ありがとう。」

「別に。それよりお前なんでここに…」


不器用で笑顔のない奴だけど、根は優しくて友達思いのいい奴。
久しぶりに会った、立派になったけど変わらない幼馴染みに、勇人はホッとした。


「俺らは……あ、あの子…」

「??」


ここに来たワケを話そうと勇人が口を開いたが、道の向こうに誰かを見つけ、隆也も同じ方向を見た。

そこには、さっき悠一郎が助けた女の子が誰かを連れて孝介のもとに向かって走ってきていた。
悠一郎はすぐさま反応して駆け寄る。

なんだ?変にあの子のこと意識してるな、あいつ。と勇人は首を傾げながら、あとで話す、と隆也に一言言ってから、孝介のもとに戻った。




「あ、あ、の……大丈夫、ですか?」

「騒ぎ聞きつけて来てくれたのか?ありがとうな!」

「……う…カズ君……お願い できます、か?」

「うん。ありゃりゃ、こりゃ酷い怪我だね。この体勢はキツイでしょう。宿かどこかにまず運ぼう。」

「えと、あなたは、医者ですか?」

「あ、ごめんなさい。ご紹介遅れました、俺、沖一利っていいます。医者じゃないけど、回復魔法が得意なんだ。」







隆也が準備してくれた宿に孝介を運び、寝かせてから一利は回復魔法をかけた。

みるみるうちに孝介の傷跡はふさがっていった。

ここまで深い傷を完全に塞げるとなると、かなりの高度魔法をつかえる人だ。
全員がすげぇと呟き、ありがとう、と礼を言う。


「いえいえ。怪我してる人を治すのは当たり前だから。」

「あの、お代は…」

「え?そ、そんないらないよ!別に商売でやってるわけじゃないんだから!」

「あ、ありがとう。本当に。」

「全然大丈夫!友達の頼みでもあるし。ね、廉。」

「っ!…あ、あ…の……良かった、です…治って」

「??(普段から人見知りはあるけど、俺の後ろに隠れるなんてことはなかったのに…どうしたんだ?)」


廉は目を合わせられないと言わんばかりに、一利の後ろに隠れている。
一利は、少し心配そうに頭を撫でながら話す。


「俺、田島悠一郎!名前なんて言うんだ?」

「み、三橋、廉…です」

「そっか!俺のことは悠一郎でいいぞ!孝介のこと、助けてくれてありがとう、廉!一利もありがとうな!」


二カッとキラキラした無邪気な笑顔に、一利もつられて笑顔になる。
廉は相変わらず後ろに隠れたままだ。


「えっと、でも、本当にありがとう。一利くん、廉……ちゃん?」

「っ!……おれっ、男です!」

「「え!」」


俺と梓は驚いて声をあげたけど、悠一郎は分かっていたのか、何の反応もしなかった。
嘘、あんな可愛いのに男だったなんて…


「ごめん!」

「だ、大丈夫!慣れてる、から…」

間違われてあまりいい気はしないだろうに、廉は何故か勇人や梓の方に気が向いているように一利は思えて、疑問に思った。
ぱっとした印象だと、悠一郎の印象はとても良い。
なのに何故か、悠一郎の方は見たくないと言わんばかりに目を背ける。

(なんで?何かあったのかな…。)

後で聞き出そうと決めて、一利はとりあえず今は触れないことにした。



「あ、傷は治ったけど、重症だったからもしかしたら熱がでるかもしれない。それだけ注意して。」

「分かった。本当にありがとう。」

「いいえ。じゃあ、俺は帰るけど…廉も帰る?」

「うん。」

「じゃあ、お大事に。」

「ありがとう!」


結局廉は悠一郎と目を合わせてない。
大丈夫かな、と一利は心配になり、腕にしがみついたままの廉の頭を優しく撫でた。














帰り道、一利は廉に聞いた。

「…なんかあった?あの子と」

「な……何も、ないけど…こ、怖いんだ。」

「怖い?」

「うん…。心が、キレイ、すぎて……真っ白で、まっすぐで、強い……おれには、眩しくて…」

「そっ、か……」


廉しかもたない、特別な力。
人の、心や鼓動を感じとる力。

思っていることや心の中が分かるわけではない。
けど、顔や態度にはでない心の中の感情や、次にどうする、どうしたい、という鼓動が分かる。

だから、確かに体術や剣術が達者な廉だけど、相手の行動が分かるから、誰にも負けたことはないし、攻撃されたこともほとんどない。


その力を人は恐れるけど、一利は怖いと思ったことは無い。

廉はそれを悪用なんて絶対にしないし、人のためにそれをつかう子だ。
だから、一利は信じている。


「廉、大丈夫だよ。俺や辰太郎がいるだろ。」

「………うん。ありがとう」


この可愛くて儚い笑顔を守るためなら、一利は頑張れる。








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