War readiness
三橋のことは、一目で気に入った。
他の女子より圧倒的に可愛いし、腕も足も細いし、肌白いし。
最初は見た目だけ。
けど、自分に自信がないとことか、男とか女とか関係なく接するところとか、すぐに泣くところとか、全ての人を魅了する歌声とか。
そんなのを見てたら、聴いてたら、
俺が守りたい、って。傍に居てその綺麗な歌声を聴いていたい、って思った。
「みっはし〜!部活行こうぜ!」
「う、うん!あ、い、泉、くん、も」
「おお〜。つーか田島、そんな急がなくても部活は逃げねーっての」
「あれ?泉それギター?弾けんの?」
「まあ、ある程度なら。田島ってエレキだよな。いくらだった?」
「俺兄貴のを1000円で譲ってもらった。泉は?」
「俺も親戚の。やっぱエレキ買うのやめっかなー…高そうだし。」
「三橋はギター買ったの?」
「お、おれ、は…お年玉、貯めた!」
「なるほど〜。」
「お、れ…エレキ、憧れ、てた。けど、似合わない、言われて、や、やめた」
「うん!三橋はゲンミツにアコギだな」
「ゲンミツの意味ちげーよ…」
「けど、今、は…アコギ、好き、だ!」
「おお!いーよな!三橋の歌声に合うと思うぞ!」
「う、うひ、ひ…」
笑顔もめちゃくちゃ可愛い。
俺だけのもんにしたいって思う。
多分三橋は俺のこと好きなんだろうけど、でも他の奴らと全く違う好きではない。一緒なんだ。
現にほら、泉のイケメンフェイスにドキってしてるだろ?
ま、多分三橋は顔で選ぶタイプじゃないのは分かるけど。でもやっぱ、イケメンにはかなわねーだろ?
「うー……泉のあほ!」
「はぁ?なんだよお前突然!」
「泉のイケメン!優男!ドラマー!」
「全部褒め言葉かよ。サンキュー」
くっそ〜!!
悪いところがなさすぎだぞ!
なんて考えてる間に、音楽室の扉を開けていた。
「おお、やっほー」
「さ、栄、口、くん!」
「むっ」
やばい!強敵忘れてた…究極の天然タラシ栄口!
あと、しっかり者で頼りになる花井!
なんて言い出したら、全員がライバルなんだ。
ま、絶対負けないけどね。
田島があからさまな敵意を見せてくるから、戸惑いと焦りと優越感を感じた。
つーかなんだよ焦りと優越感って。
三橋は俺のじゃねーだろ。
って、否定しようとしてる時点で、三橋のことを気に入ってるって認めるようなもんだ。
とかそんなこと思ってたら、顧問の百枝先生が現れた。
体育の先生だから最初は信じらなかったけど、花井の話によると、音楽詳しいらしいし以前百枝先生自身も音楽に携わってたらしい。顧問に期待してなかったから、これはラッキーだな。
「軽音部の顧問やらせてもらいます。百枝です!よろしくね。」
よろしくお願いしまーす!
運動部並みの大きな挨拶。野球部みてぇだな。
「早速だけど、それぞれ練習始めてくれるかしら。私が見て回ります。それで、6月の文化祭の組み合わせ決めていきましょう。花井くん、よろしく」
「はい。お前ら、こっちらへんにー…」
と、メインでやる楽器ごとに分かれて練習と改めて自己紹介とをすることとなった。
同じドラムの巣山は、昨日も喋ったけどやっぱり男前で良い奴だ。ドラムもうまい。
スタメンとかそういうのはないだろうけど、やっぱり上手い奴どおしで組んで、それがメインで回っていくのだろう。
ボーカル三橋、ギター田島はほぼ決定だな。
ベースは阿部か……ドラムは、多分、巣山になるだろう。
メインじゃないのが嫌なわけじゃない。
ただ、三橋と同じチームがいいなと思ってしまうのが、正直なところだ。
「……って、やっぱ惚れてんじゃん…」
「ん?泉なんか言った?」
「なんもねぇ。……俺ボイパ練習しようかな」
「お、いいよな、ボイパ。やってみたら?」
「……おう」
やべえ。まじで巣山はかっこいい。
おれは一応ボーカルとして入ったから、どこにいればいいか分からなくて、とりあえず田島くんとギターのところにいた。
「栄口、それ、何?」
「知らない?マンドリン。」
「知らねー!ギター小ちゃくしたみたいだな!」
「あはは。よく言われる。綺麗な音でるんだよ」
「その丸いのは?」
「これは、バンジョー。まだ練習中だけどね。あとバイオリンと、キーボードかな、俺は」
「す、すご、い、栄口、くん!」
「そんなことないよー。でも、ありがと」
色んな楽器できて、すごい、なあ。
おれも、違う楽器やってみたいな。
「あら、マンドリン?」
百枝先生が、おれらのところに来た。
栄口くんはピシッと背をただして応える。
「はい。俺吹奏楽部だったんですよ」
「吹奏楽でマンドリンやるのね」
「あー……顧問がマイナーな楽器とか好きで、マンドリンとか、バンジョーもだし、弦楽器は特に変わったの取り入れてて。」
「なんで、軽音部に?」
「え、っと……ここの吹奏楽は本格的ですよね。コンクールとかも金賞多いし。でも俺は自由に音楽やりたくて…軽音部、阿部に誘われたときに俺のやりたいカタチだなって思ったんです。」
「そうなの…。うん、私もそう思う。軽音部だからって、バンドってカタチにこだわらなくていいもの。好きに音楽やりましょう。」
「はいはーい!じゃあ俺トランペットやってみたい!」
「あら、どうして?」
「かっけーじゃん!主役になれるし!」
「そうね。いいんじゃない?考えとくわね」
「田島ギター一筋だと思ってた…」
「ギターが一番だよ。でも他のものやったらかのーせーが広がるじゃん。」
「可能性ね。平仮名にならないの」
可能性が、ひろがる。
そうか、ならおれも色々挑戦していいんだ。
「みんなー、集合して!」
百枝先生の言葉でみんな集合する。
みんな少し緊張感のある面持ちだ。
「みんなそれぞれ良いところがあるし、それぞれの個性がある。だから、私はメインとかスタメンとかそういうものは作らないでおこうと思う。曲によって、歌によってメンバーを変えていけばいいのよ。みんなは、どう思う?」
「はーい!俺もそれ賛成!せんせーがこの歌にはこの人!って決めればいいと思う!」
「まあ、私だけじゃ決めれないから、みんなで決めるのよ。ね、いいでしょ?」
メインはない。スタメンもない。
みんなが主役で、みんながメインで。
うん、それが良いような気がする。
だってみんな音楽が好きで、音楽がやりたくて集まったんだ。優劣なんてないんだ。
あ、あるかもだけど、それは競う状況になったら出てくるもので、おれたちはみんな音楽を楽しむためにやるんだ。
好きに、上も下もない。
「もうすぐってわけじゃないけど、文化祭がある。今はそれに向けて準備しましょう。歌はみんなで決めること。わたしは手助けしかしないからね。わかった?」
『はい!!』
楽しみだ。
みんなで、音楽やれる。
「沖、キーボードうまいな…」
「花井ほどじゃないよ。でも俺、ピアノしかやってなかったからさ」
「栄口って歌も上手いよねー」
「そんなことないけど…水谷歌は?」
「俺からっきしなんだよー!でも、キーボードとかは任せて!」
「泉は、ドラムもギターもいけんの?」
「まあ、な。キーボードもある程度は。でも大したことねえげとな」
「メインはドラム?」
「うん、そのつもり。」
「三橋!」
「っ、あ、あべく…」
「お前、何かやりたいのとかあんの?」
「お、おれ、は……」
ギターも続けたい。けど、キーボードだってベースだってやってみたい。
でもおれは、やるだけでいいから。
別にみんなより上手くなりたいとかそういうのはないんだ。
って、言えたら、いいのに。
怖くて、言えない……。
「…………」
「阿部。表情。」
「………こっちを見ろよこっちを…」
「お前が怖いからだろ。……三橋、何言ってもいいんだぞ。別に、やってみたいってだけでいいんだからさ」
「………や、やってみた、い?」
「そう。気になるとか、かっこいいとか。最初はみんなそんなのなんだし。」
「…お、おれ……ベース、やりたい!」
「っ!おお!じゃあ俺が教えてやんよ!」
「っ!!!」
「あ、わ、悪りぃ……そういうことじゃ、ねえの?」
「声でけぇよお前は…」
阿部くんの真っ直ぐな目が怖い。
大きな声が怖い。
けど、おれのことを考えてくれてる。
そう感じた。
花井くんも、優しい。
こんなおれを庇ってくれるし、フォローしてくれる。頼りになる。
「また、みんな色んな楽器やってみればいいよ。お前も、三橋もな」
「俺は他の楽器興味ねぇ」
「あのなぁ……」
音楽に決まったカタチなんてない。
音を楽しむのが音楽なんだから。
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