Hello Baby

茜色した陽だまりの中

無口な風が二人を包む

歩幅合わせて歩く坂道

いつもあたしは、追いかけるだけ





「お前………軽音部入んねぇ?」







「えーっと……だから、つまり…」

「授業サボって屋上で寝てたらこの子が来て、んで歌声があまりに良かったから半強制的に連れてきた…ってことか?」

「おお。」


今おれは、名前も知らない男の人に手を掴まれ引っ張られ、あれやこれやで第1音楽室にいる。

またもや知らない人達に囲まれて、次はおれの周りで何やら口論となっている。

ああ、どうしよう……
おれの歌声なんて、大したこと、ないのに。
というか、歌で褒められたことなんてないのに。


「つーか、まず名前ぐらい聞けよお前は…」

「ひっ、す、すいま、せ……」

「あー、おまえに言ったわけじゃねえよ?このアホに言ったんだ。」

「アホとはなんだ!ハゲ!」

「ハゲじゃねえ!!」

「……で、名前、何ていうの?」

「…みは、し……れん、です。」

「三橋さんか。俺は栄口。よろしくね。」


い、いい人だっ!


「さかえ、ぐち、くん…!」

「うん。あ、あの三橋さんを引っ張ってきた失礼な奴は、阿部ね。」

「あ、べ……」

「で、隣の坊主の人が花井。部長だよ」

「おぉ!部長っ」

「坊主いうな。悪りぃな、阿部がなんか失礼なことしてさ」

「あ、い、いえ…」

「お前ら言い過ぎだろ!」


阿部くんと花井くんがまた何か話している間に栄口くんから、他にも部員がいること、今日は全員が顔合わせする日だということを聞いた。

花井くんだけが全員と顔合わせしたらしいけど、阿部くん栄口くんはまだらしくて、今日は大事な軽音部の活動初日だったらしい。


確かに栄口くんが色々話してくれてる間に、ちょこちょこ人が集まってきていた。
ギターケースを背負ってる人、ドラムのスティックを持ってる人。
本当に、みんな初めてなのか…


「あ!三橋じゃん!!」

「うぉ!……あ、た、たじ…」

「おー!俺の名前覚えててくれたんだ!田島悠一郎!よろしくな三橋!」

「よ、よろしくっ!た、田島、くん!」

「おー!つーか、三橋も軽音部入んの?」

「え、いや、おれは……」

「なんか阿部が無理やり連れてきてさぁ」

「阿部って?」

「あいつ。だから三橋くんは入部希望者というよりは、推薦者というか…」

「ふーん。よし!入ろうぜ!な!あ、なんか楽器できんの!?」

「えっ、え、と……ギター…なら、少し…」

「おお!じゃあいーじゃん!入ろうぜ」

「で、でも、」

「まあ、無理にとは言わないけどさ、興味あるなら是非入ってよ。ね?」

「う、うん…ありが、と」

「三橋可愛いのなー」

「そんな、こと…!」

「そんなことあるの!」


か、可愛い…?
ぽかん。と何も言えずにいると、入部希望者全員が集まったらしく、花井くんが話し始めた。

とりあえず自己紹介。名前とクラスとできる楽器、または希望する楽器を言っていくみたいだ。

抜け出すこともできないから、おれはとりあえずその自己紹介を聞いてから出て行くことに決めた。








「結構、経験者だなー。初心者しかあつまらないの覚悟してたけど、すげぇな…」

「はいはーい!三橋もギターできるって!」

「え、た、田島、く!」

「おい、それ本当か。お前ギターもできんの!?」

「え、で、で、も……ちょっと、しか…」

「あー。とりあえず阿部落ち着け。とりあえず今からは自由でいいぞ。楽器さわっててもいいし、帰ってもいいし。あと明日顧問の先生来るから、今日と同じ時間になー」



花井くんがまとめてくれて、みんながバラバラに行動しだした。
帰る人は……いなさそう、だな…。
早速みんな、楽器さわるみたいだ。



「みーはしっ!」

「うぉ!…た、たじまく……」

「な、ギター持ってねぇの?」

「持って…る、けど……家、デス。」

「ちぇー。」

「つーか、三橋。歌ってみてくんね?」

「え!」

「花井と栄口に認めさせる。」

「いや、認める認めないじゃなくて、本人の希望を聞いてやれよ!」

「本当それだよ…もし三橋さんが入りたいって言うなら大歓迎だしさ。」

「ちげーよ、そうじゃねえんだよ…とりあえずこいつの歌声聞いたら分かるから」

「どういうことだよ。聞くけどさあ…」


どうしよう、どうしよう…
歌う流れに、なっちゃってる…

おれは、おれは……

ダメ、なんだ。

歌、なんて……。



「あ、べくん!おれ……は、は、入れ、ないです」

「っ!…なんで!」

「阿部やめろ!女だぞっ!」


肩を掴まれて、少し怖かったけどすぐに花井くんが離してくれた。
その後、田島くんが阿部くんからおれを守るように前に立ってくれる。


「入る入らないは三橋の自由だ。お前が勝手に決める権利はねぇだろ。」

「……んでだよ。そんな良い歌声してんのに」



"音楽?馬鹿馬鹿しい。そんなことよりお前は、○○会社の息子さんと……"

"廉、しょうがないの。運命なのよ…"




「良くなんか、ない、よ……だ、って……誰も…認めて、くれない……」

「…?三橋?」

「好きな、だけじゃ……ダメなん、だよ…」


しーん、とみんなが黙った。
その空気が嫌で、おれは俯きながら後ろを向いて出口に向かった。

おれは、音楽を、やっちゃダメで……

だから……




「待て!三橋!」

「あ、べく……」

「悪りぃ。強制的に連れてきて…でも俺は、お前に入部してほしいんだ。」

「………」

「俺、お前の歌声が、好きなんだよ。また、考えてくんねぇ?」

「…っ!……す、き…?」

「ああ!良いよ、お前の歌声!」


ずっと、良いって言ってくれてたのに、今初めて実感した。

褒めてくれる人がいることが、
こんなにも嬉しいなんて……。



「三橋!とりあえずさ、歌おう!」

「田島、くん……」

「俺も歌う!一緒に歌おうぜ!な!」

「………うん!」


嬉しくて、こんなにもおれに優しくしてくれるのが泣けるぐらい嬉しくて。

俺は涙ぐみながら頷いた。


……あれ?みんな、固まった?

おれ、なんか変なこと、言ったかな…?



「あ、あの……田島、くん?」

「……三橋……お前、可愛すぎるぞーー!」

「あうっ!た、たじま、くん!?」


ギューって抱きつかれて、おれは思わず緊張した。だって、だって、初対面でこんないきなり抱きつかれたことなんて、ない。

ドキドキして固まってしまって。
でもすぐに他の人達が田島くんを離れさせてくれた。


「なーんだよ!離すなよー」

「ばか!いきなり抱きつく奴があるか!」

「だってー!」


顔が赤いまま固まってたら、次は栄口くんが肩を叩いて、笑ってくれた。












「歌、何がいい?」

「みんな知ってるやつにしよーぜ!」

「せっかくだし合わせたいね」

「いけるか?いきなり」

「はーい!俺ギター!」

「はいはい。ベースは…」

「俺やる。花井軽くでいいからリズムとってくれ。」

「あーじゃあ、キーボードで音とるな」



みんなてきぱきと動いて、準備が整っていく。
ドラムは泉くんがやるみたいだ。

相談した結果、みんな演奏したことのある歌があったからそれにした。



「三橋!分かるよな?モンパチ」

「……小さな、恋の、うた?」

「そう!歌詞これな。」

「おぉ!…うん、おれ、頑張るよ」


田島くんが二カッと笑ってくれて、それにつられておれもふにゃりと笑った。

泉くんのスティックの音で、演奏が始まった。




みんなとても上手くて、おれはまずそこに呆然としてしまった。

それに気付いた田島くんが、先に歌い始めてくれた。

田島くんらしい、芯のある通る声。それもただただ上手くて、おれはさらに感動してしまう。



サビからは歌え
って田島くんが目で訴えてるのが分かって、おれは頷いた。



ほらあなたにとって
大事な人ほど すぐそばにいるの
ただあなたにだけ届いてほしい
響け 恋のうた
ほら ほら ほら 響け恋のうた





みんなが見てることさえ忘れて、おれは夢中になって歌った。





終わった瞬間、みんなが拍手喝采してくれた。

おれはやっと我に返って恥ずかしくなって、思わず優しい田島くんの後ろに隠れる。

田島くんがさっきとは違う小声で、三橋可愛いな。なんて言うから、またおれは顔を赤くして固まるしかなかった。









「分かっただろ?花井。こいつ…」

「いや、まじで…そこらのプロより上手いかもな…」

「かもじゃなくて……まじで三橋は、上目指せる」









田島くんや阿部くんの後押しで、おれは軽音部に入部することになった。
改めて自己紹介して、明日ギターもちゃんと持ってくるように言われた。


好きな歌を続けられることに、おれは嬉しさと罪悪感とを背負いながら、笑った。

















始まりました軽音パロ(^ω^)
よろしくお願いします!
ちなみに私、楽器詳しくありません!

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