6、道

あの夜をやり直せる機会にめぐり合えたら、僕はまた必ずネズミを助けるだろう。
そして出来うる限りの知識を総動員させて傷を縫うだろう。
痕なんて残さないくらいに、丁寧に縫合する。

幾度思い返しても、心は変わらない。
僕はネズミを助ける。
それ以外に、僕の道はない。

もしも嵐の夜、ネズミと出会わなかったとしたら、僕は何の不自由も無く、何の疑問も持たず、No.6で暮らしていたはずだ。母と共に。それが幸せなのか、不幸なのか。今となっては後者だと言わざるをえない。僕は、現在胸に抱く幸福を、知らずに生きているのだ。なんて恐ろしいことだろうか。


「ネズミを殺せるのは、あんたくらいだろうな」

おかしくってたまらない、そんな顔で、イヌカシが言った。

「あんただったらネズミの寝首をかけるだろうし、ネズミが誰かをかばって傷つくなら、あんた以外にいない。ほんと、ネズミらしくないけどな」

そんなことはないと訴えても、イヌカシは考えを変える気配はなかった。ネズミにとっては、僕はそれほど重要な存在ではないはずだ。

ネズミは僕と出会わなかったとしても、変わらずに美しく、逞しく生き抜いているだろう。それが答えだ。容易に想像出来るからこそ、形容しがたい想いが鈍く広がっていく。

「でも、あんたら、もう出会ってんだろ? あんたの、そういう鈍さに、時々イラつく」


僕らが出会ったことに意味があるなら、僕がネズミを殺すのでなく、ネズミが僕のために傷つくのでなく、手を取り合い、二人で歩んで行きたい。

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