3、独占欲
ネズミは自分が綺麗だということを知っていて利用している。
でも、それは少し間違っている。ネズミはネズミ自身が思っているよりも、もっと、随分と綺麗なのだ。
一点の曇りも、歪みもない鏡なんて、西ブロックにはないのだから、ネズミは誰よりも己のことを知らないに等しい。
その整った唇から、悪意に満ちた言葉を放ったとしても、全て意図的なもので、僕のように無神経が故の発言ではない。
だれしもが、投げつけられた言動を帳消しにしたくなるくらいの容貌を、ネズミは持っている。
僕の欲目ではなく。
深く繋がったまま腰を揺らすと、ネズミの細いあごが上がる。薄く開かれた歯列の隙間から、僕の耳をくすぐる声が漏れる。切なく寄せられた眉も、長い影を落とす睫毛も、今だけは全て僕のものだ。
敷布を握り締める指は白く色を失っている。ネズミが言葉にしなくても、言葉に出来なくても、僕を感じてくれている証だ。
自分の快楽を追うように、そして、僕の欲望を満たすように、ネズミが応えてくれる。
どろどろになりながら繋がっているのに、ネズミには美しさしかない。
綺麗な君が汚れた言葉を仕舞う時に、君の本当の姿が見えるのを僕しかしらないなら、こんな幸せな事はない。
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