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 8月1日

 克人を含む一高の選手たちは、九校戦の宿舎となる軍施設のホテルに到着した。バスから降り、自ら荷物を持ってドアをくぐる。当たり前のことだ、なにせ軍の施設が故にポーターやドアマンなどいないのだから。

「受付はこちらです。皆さんここで部屋の鍵を受け取ってください」

 建物内に入ると、受付とみえる場所から女性の声がした。声の主である女性士官は、軍服の常装を身に纏い、電子機器を操作してキーを渡していく。克人も受付へ向かい、キーを受け取らんとする。順番待ちをしてすぐに自分の番が回ってきた時、名前と所属を確認し、本人認証だけを行っていた女性士官が、十文字様ですね?と違う言葉を発する。

「お荷物が届いています。あとでお部屋まで持ってまいりますのでお待ちください」

「?ーー分かった」

 にこやかに笑った女性士官からどこかデジャヴを感じつつキーを受け取る。そして、キーに書かれた部屋番号へ向けて荷物を手に歩き出した。


 しばらく後。
 部屋でしばしの間寛いでいた克人の部屋のチャイムが鳴る。鍵は開いていることを外の人間に伝えると、失礼しますという声とともに先ほどの女性士官が入ってきた。

「先ほどのお荷物です」

 手渡される封筒を受け取る。やけに軽い。だがとりあえず手にとって握っているので、

「確かに受け取った」

と礼を述べた。これで、この士官は部屋から立ち去るーーそう思ったのだが、一向にその気配がない。ニコニコ笑って、こちらを見ている。

「…何か他にあるのか」
「私に見覚えはありませんか?十文字殿」

 目の前に立つ女性士官の容姿は、赤茶色のショートカットに青みがかった黒の瞳。知らない。知らないぞ。
全くわからずに沈黙していると、女性士官が急に笑い出す。

「あははっ…これは成功ですね」

 そう言って赤茶色のショートカットーーウイッグを外した。黒茶色のロングヘアがこぼれ落ち、一瞬でいつも見ている人物と酷似した容姿になった。

「…あ、明澄?」
「そうですよ十文字先輩」

 明澄は笑いながら地に足をつけ、くるりと回ってみせる。

「ここまで変装上手とは思わなかったでしょう?」

 そう言って微笑んだ彼女に、国防陸軍の常装姿で目の前に立つ2歳年下の少女に、克人は笑ってみせた。

「…ああ、驚いた。来てたんだな」
「はい。お久しぶりです十文字先輩。3日くらい前から入っていたのですが、とりあえず今日から本格的に仕事です。基本は警備として参加しますから。ーーもちろんこのウイッグとカラコンで」
「そうか」

 よいっ、しょっと。
 明澄はぎこちなくも上手くウイッグをかぶりなおした。元の黒茶色の髪はなくなり、先ほどと同じ赤茶色のショートカットの女性士官となった。その変装ぶりに感嘆しながら眺める。そして、彼女は簡単な挨拶をしては退室の許可も求めずに部屋を出て行った。

 ちなみに、封筒の中身は紙が一枚。内容は白紙だった。本人にも確認したが、本当に白紙だと言われた。心に冷たい風が吹いた。

どんな場所であれ悪戯はやめられない


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