×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

 7月中旬
 横浜南部 文科高校
 教室棟3階

 ガヤガヤ、ザワザワと賑わう学校内の一室。ダンボールの切れ端やテープ類、画材が散らばる教室内で、男子生徒の声がひときわ大きく響く。

「荻野!ダンボール足りないんだけど!」

 荻野、と呼ばれた別の男子生徒――荻野慶太は不機嫌を隠さずに顔を上げる。手元にあるのは大量の会計報告のための材料と設計図、文化祭委員の資料など、多忙さを示すものばかり。電卓を見ることなくレシートの金額を打ち込み続ける彼は指示を飛ばす。

「あ?じゃあ男3人で近くのスーパーにもらいに行け、寄り道したら栗本が処刑に向かうからな」

 タブレットにペンタブを接続し、みるからに寒そうな風景を描いて何ともカオスなチラシを作り上げようとしていた明澄があ゛?とジト目で顔を上げる。

「お前は何言ってるのさ荻野!」
「うるせえ!次のテストは負けねぇ…!」

 ちくしょう、と悲しい響きが伝わり、明澄はため息をつく。そこにまあまあ、と悠がやってきて、荻野の肩を叩く。

「まーだ根に持ってる…明澄ちゃん、俺が行ってくるから処刑しに来ないでいいよ」
「ありがとー」

 慶太の不機嫌とそれをなだめる悠。その元凶はこの前のテストとその結果にある。


――1週間前――

「はーい。では、これからテスト用紙を配るから、ほら。そこのカンニング予備軍共はカンペしまえ」

 いつもと同じように教室にやってきた佐藤。数学のテスト用紙を配らんとする彼に対し、生徒からヤジが飛ぶ。

「うるせー見させろ!」
「テストなんて滅べばいい!!」
「てかこの作品に勉強シーンなんてないだろ!」

 言っちゃあいけないヤジも聞こえるが、私にとって一番大事な叫びは目の前の男――荻野慶太から振り向き様に言われた。

「絶対負けないからな…!」
「はあ」

 明澄は驚きにより間抜けな声で返事をしたが、彼が前に向き直した後で、

――あ、これ宣戦布告じゃん

遅すぎるが気づいた。かといってテスト直前にそれを言われても明澄にできることはないので大人しくテストの用紙が配られるのを待つ。

「はーい戯言はそこまで。言っちゃあいけない発言は万死に値するので赤点な」
「それだけで赤点にするな!」

 佐藤の物騒な発言と生徒の叫びをBGMにテスト用紙は配られ、まだカンペを見たいと足掻く生徒に無情のチャイムが鳴った。

 そうして始まった高校初の一週間のテストは、明澄にとっては安泰に終わった。進学校特有なのか即採点をして順位づけされるため、土日を挟んだ次の週にはテスト用紙が返却されるだけでなく成績上位者が電子掲示板に掲示される。もちろん、テスト休みなどそんなものもなく、即授業再開ゆえにえげつないったらありゃしない。
 月曜日、明澄は全くそんなものに興味が持てなかったが――特に、軍の呼び出しを夜中に食らえばそんなものだ――慶太に連れられてそれを見に行く羽目になった。
 で、結果は、

「あ、一位」

 明澄の首席に終わったわけで、隣に立つ人から殺気やらなんやらが膨張していくのをひしひしと感じながら今日に至る。

――回想終わり――

 あー今日も殺気が痛いなぁ(笑)などと思いながら明澄は仕事をこなしていく。しばらくして明澄さん!と呼ぶ声がして顔を上げれば、

「ジャジャーン、女子お手製メイド服&ウェイター服よ!」

被服管理者を率先して引き受けた派手ガール…市川さんが満面の笑みで解説する。モデルとしてメイド服を着ているのは平均身長に届かないサイズのクールガール、澪ちゃん。かわいい。

「上半身は学校指定ワイシャツに作った青いリボン、下半身には作った青い膝下丈のスカートを履いて、それらの上にひらひらのエプロンをつけるの。頭は青いバンダナね。どう?」
「凄い良いね。大量生産しやすそうな作りだし」
「ちなみに男子はいつものズボンとワイシャツで、その上から青いタイ、紺のベストにしたわ。この2つも大量生産」
「うわあ…しばらく徹夜かな?」
「できればしたく無いわね。――とりあえず女子!自分の分と仕方なしに男の分も持ってって縫ってちょうだい」

 市川さんが持ってきてーと一言言うだけで他の女子が生地の入った段ボール箱を持ってきた。凄い統率力だなぁと内心感心しながら、明澄はメンズのダンボール箱から2人分の生地を引き抜く。

「私はウェイター「ダメよ明澄ちゃんはメイド服」嫌だぁ!」

 ばれたか。たしかにメイド服はかわいいが、わたしはウェイター服を着てメイド服を着るかわいい女子を眺めていたい系女子だ!デレステで鷺沢さんや新田さん、あんずちゃんを非課金で溺愛する程度には女の子好きだ!

「勘弁してよ市川さん!私はウェイターになりたい!!」
「素材がいいんだから着なさい!」
「明澄、背も高いし胸もあるし」
「澪ちゃんやめてー」

 じりじり詰め寄る女子たち。その手には元試作品の衣装が握られ、明澄はペンタブを抱えて椅子ごと後ずさるが、

――OH!!もう壁!!!

 完全に行き場を失った。きょろきょろ周囲を見回すが、救いも隙間もありはしない。男どもなんてサムズアップでにっこにこだ。お前ら、夜道を歩くときは背後に気を付けるんだな……!!

 結局私の手にはメイド服とウェイターの生地が握らされたうえ、市川さんと澪ちゃんに思うがまま着せ替えられ、その他女子男子関係なく写真を撮られた私はSAN値を散々削られ、

「明澄ちゃん美人だから仕方ないよね!」

段ボール回収から戻ってきた集団の長、斉藤悠にそんな言葉を満面の笑みで言われて撃沈した。こいつ…これで通常営業なんだぜ…イタリア人かよ……。


戦略級魔法師でも正気度と言葉には勝てない


戻る