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翌朝
東京某所――九重寺

「痛い」
「もう、あんなところに跳んでくるからよ」

 縁側に腰掛けながら、深雪に絆創膏を貼ってもらう明澄の姿があった。つい先ほど玄関からテレポートしたところ、九重寺境内の一角、司波達也と変態師匠の格闘フィールドに飛び込む大惨事を起こした。

「大丈夫か、明澄」
「た、達也くん…」

 痛いよー、と情けない声を出せば魔法を使っての治療を提案される。それを聞いた明澄は即刻姿勢を正し、

「それはいい。――緊急時にしか使わないの」

ぴしゃりとそれを断る。同じ独立魔装大隊のメンバーかつ特尉である彼の固有魔法は嫌という程知っている。それだけに、いとも容易くその魔法を使わせるのはいけない。

「だが――」
「いいの。これくらいすぐ治るから。――痛っ」
「ごめんなさい明澄、染みたわね」
「いや反射で言っただけだから。まあともかく、大丈夫だよ達也くん」
「そうか、分かった」

 この会話のうちに私の手当ては終わり、深雪に礼を言うと彼女は満足そうに笑った。そして深雪からタオルを受け取って縁側に座った達也の後から箱を持った師匠がやってくるのが見えたので、深雪にブーツの洗浄をお願いする。快諾してくれたのでブーツを脱いで待機。

「まさか明澄の服まで綺麗にする日が来るとはね」

 そう言いながら深雪は達也と明澄の足から頭まで全ての汚れを霧散させ、ブーツの汚れも取り払ってくれた。ほんと女神様。ブーツを大きな紙袋に入れ、師匠に預ける。

「はい、受け取った。これは昨日受け取ったやつね」
「ありがとうございます」
「右が加速、左が減速ね」
「いつも通りですね」

 明澄は箱を開け、中身を取り出すと箱は自宅に転送する。靴を履いて立ち上がり、右足にサイオンを流して走り始める。

「うんうん、快調」
「減速も入れてみてよ」

 右足へのサイオン供給を止め、テレポートで上空100メートルに移動して落下を始める。そして止めていたサイオンの供給を左足に切り替えれば、重力のままに落下していたものが減速され、ゆったりとしたスピードで地面に着地する。

「良いんじゃないですかね」
「うん、見た感じも悪くない、よっと」

 落下地点を目掛けて魔法を併用した打撃攻撃を仕掛けてくる変態師匠。明澄は急遽着地地点をテレポートで変え、上着のポケットから特殊警棒を引き抜く。そして飛んでくるかのようなスピードでやってきた師匠の蹴りを左足の減速と警棒に打ち込んである硬化の刻印魔法を警棒に対して発動させ受け止める。

「あっぶな」
「ふむ。警棒に対して元々備え付けの硬化術式と靴の減速術式をかけたのか。毎回のことだが、君の刻印術式は面白い」

 サイオンを流す量によって術式の効果が及ぶところを変えられるように研究した、栗本家代々にひっそり伝わる独自の技術をさらに改変して組み込んだ自己流の術式。師匠に初めてあの術式を見せた時は完全に解読できなくて納得いかんと言われた記憶はまだはっきりとある。

「明澄、無理はしないでね」
「わかったよ深雪ー」

 声をかけた深雪は兄の隣でじっと試合を見つめる。もちろん、その兄も。
 息をするようにサイオンを操作し、思うままに魔法を発動する。足にサイオンを流し込んでいるにもかかわらず、身体のあちこちを指定した加速や減速を行う彼女に、達也は感嘆した。
 不思議です、と深雪がつぶやく。

「明澄は普通の魔法が使えません。お兄様と同じで、魔法演算領域が固有魔法に占拠されているが故なのですが、そんなことはとても嘘のように思えてきます」
「そうだな…あそこまで当たり前のように刻印術式を使って戦闘しているのは信じられない。見た目は本当に普通の戦闘スタイルだし、CADを使っているのではとすら思えてくる。だが、あの靴や警棒がなければ明澄には固有魔法しか残らない。公に対して制限されている以上、やはり彼女が普通科に行くのも納得だったのだろう」
「…せめて、一高に魔工科があればと思わざるをえません」
「その気持ちは分かるよ」

 兄に頭を撫でられながら深雪は明澄の顔を見る。
 ここ最近で一番の、生き生きとした楽しそうな横顔だった。

彼女はなんだかんだ魔法使いです


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