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 今日こそ、私は負けない。

 n回目の誓いを胸に、由布子は十一番隊隊舎の玄関で仁王立ちする。

「草鹿さん、どちらへ。これからお勉強の時間ですが」
「あそびにいくんだよ!」
「縛道の六十一 六杖光牢」

 容赦はしない。詠唱破棄だが身内に撃つにはかなりの霊圧を込めた縛道で自分の同輩を拘束する。

「更木隊長に読み書きを習ったのなら、次はその力を書類仕事で発揮できるようになっていただきたいです!」
「やだー!」

 そう言って草鹿さんは縛道を霧散させる。それを予測していた私は、すでに練り上げていた次の手を放つ。

「縛道の六十二 百歩欄干!」

 これで隊舎の壁にくくりつけてやる…と思っていたのだが、刀を抜いた彼女にへし折られる。ああ、へし折るのか………。

「剣ちゃんによろしく!じゃあねー!」

 目の前には開け放たれた扉と、彼女が舞い上げていった砂ぼこりが落ちる様子。

「また…逃げられた……」

 私はn回目の敗北を喫した――――




 その話を聞いた京楽隊長は、笑って言う。

「僕知らなかったけど、杜屋ちゃんって結構過激な子だったんだねえ」
「喜多よりは穏やかですよ」
「それ、どの意味だい?」

 さあ。私にもわかりません。

 十二番隊の新隊長候補を決めるべく呼び出された一番隊隊舎で、由布子は静かに首を横に振った。そのやりとりを見ていた総隊長が、静かに吐息を漏らす。

「全く、職務を放り出させるために二人目を据えたわけではないぞ」
「でもまあ、子供ですから」

 浮竹隊長が苦笑する。

「さて、本題に入るかの――――」

総隊長の言葉に、背筋が伸びる。隊長・副隊長ほぼ全員が集められたにも関わらず有り余る空間に、その声は良く響いた。

彼の話は、簡単に言えば、十二番隊隊長を涅マユリという男にするか否か。蛆虫の巣出身者である彼が危険人物であるという懸念を拭えない人たちは、彼の隊長就任を拒む。しかし、他に代わる人がいるでもない。どうしたものか。…ここしばらく、ずっとこうだ。そしてにっちもさっちも行かなくなって、現場の人間を呼んだのだろう。

 由布子自身は、涅マユリの隊長就任に反対する意見は何一つ持ち合わせていなかった。それは彼が実際に研究しているところや、実験を主宰しているところを見たり参加したりした結果から得た本心。

 それをどう切り出すか。静かに悩んでいると、助け舟が出される。

「杜屋は、涅さんの実験に協力したことがあります」

 卯ノ花隊長だ。例の実験の話を、喜多の体質は伏せて話して、それから私に、涅マユリについての意見を問われた。

「涅さんは、科学者であり続けることが出来るなら、その場所を守るために必死になると思います。そして、彼がそうあれる場所はここです。だから、彼がどう思おうとも、護廷十三隊にとっての職務はきっちり果たされるのではないでしょうか」

 うまく言おうとして、言えたことはそれだけだった。もっと何かを言わないといけない、そう思っていると、左の袖を引かれる。犯人は、逃走したはずの草鹿さん。いつの間に。

「…!」

 隣に立つ彼女は笑って、正面を向いた。それにつられるように下げていた顔をあげると、案外周囲は穏やかな、納得するような顔をしていて、少し驚く。

「だってよ、山じい」

 京楽隊長がゆるりとそう言う。驚きに瞬いていると、パチリと片目を閉じる彼に、どうやら涅マユリのことは結構気に入っているらしいと察しを付ける。視線をずらして浮竹隊長を見ても笑顔なので、おそらく年長組共通の意見なのだろう。

「杜屋副隊長」
「――――っ、はい、」

 総隊長の声に、半ば反射で姿勢を正す。

「お主、あやつと意思疎通はできるか」
「は、はい。できます。多分」
「ならば、率先して交流してもらえるかのう」

 護廷十三隊を取り仕切る男のお願いに、首を横に振るほどの勇気はなかった。何より、涅マユリを蛆虫の巣へ送る最終的な決裁は総隊長やその周辺によって行われたのだから、間を取り持ってほしいと願われるのは当然のことに思えたので、断る理由はない。

「涅マユリを十二番隊隊長に推挙する」

 こうして、結構な期間空席だった十二番隊の隊長の席は埋められた。

 彼が望もうが望むまいが、涅マユリは十二番隊を仕切ることになる。

(技局だけがいいって言いそうだけど、まあなんとかしよう)

 由布子は内心、満足して頷く。そして下を向いて、小さな同僚に声をかける。

「ありがとうございます。やちるさん」
「!」

 大きな目を瞬かせた彼女は、嬉しそうに笑った。



 それから涅マユリの十二番隊隊長就任はつつがなく行われ――――しばらく経ったある日。

「十一番隊から届け物に参りました。涅隊長にお目通りを」

 十二番隊に顔を出した由布子は、十二番隊の隊首室へすんなり通される。また改造が過激に施された隊舎内は記憶とは別物になっていたが、そこを気にしていては始まらないので、迎えに来た阿近の案内で歩を進める。

 そうして、白衣ではなく十二の数字が書かれた白い羽織を羽織った、奇抜な見た目の男に会うと、由布子は荷物を置く。用事も終わったので帰ろうと踵を返した時、前の隊長と違って何だかんだ生真面目に書類をさばき、研究の時間を確保する彼が、本当に珍しく由布子を呼び止める。

「キミが推してくれたと聞いたヨ」

 一体何時の話をしているんだ…?と考え込み、隊長就任時の話か、と思い至る。

「『臆病で諦めの悪い強欲な男』が選んだのですから、適任だと思いました。それだけです」

「………フン」

 だがマア、礼を云うヨ。

 珍しく素直な言葉に、由布子は静かに頷いた。




薄紅葵の口重コミュニケーション