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 ある日、私はマユリさんに呼ばれて十二番隊へ向かった。そこで、阿近くんに連れられた小さな子供と引き会わされる。

「マユリさん、こ…この子は…?!」
「涅ネム。技術開発局が無から生み出した被造死神、私の娘ダヨ」
「はじめまして、涅ネムと申します」
「かわいい…!浦原喜多です、よろしくね!」

 頭を下げて丁寧に自己紹介したちびっこ、ネムちゃん。とてもかわいい、フニフニしてそうなほっぺとかいいなあ。そのようなことを考えていると、マユリさんが爆弾発言を投下する。

「これを貴様に預ける」

 …は?ハイ?何を?

「隠密機動の技能持ちで、回道が使えて、私の目がなくとも死ぬ危険性がないところと言えば君の側が一番じゃないかネ」
「いやいやいや!何を言うんですか!」

 さも当然のようにマユリさんは言い、うんうん、と阿近くんが当たり前のように同意した。意味がわからない。

「時々杜屋が四番隊に顔を出しているだろう。ついでに戦闘力を仕込んでくれたまえ」
「回道と戦闘の英才教育だな」
「いや阿近くん止めてよ!私は始末書で忙しいんだよ!杜屋ちゃんなんて本物の忙しい副隊長だよ!」
「「回道砲」」
「ぐっ…何も言えぬ…!」

 そうだよ手伝ってもらっちゃったじゃん開発!!!私の弱味握られてて笑えないぞこれ。

「大丈夫ダ、ネムは私の頭脳を受け継いでいるから学習機能は浦原四席より断然上にある」
「むしろ始末書を書いてたら手伝われそうだよな」
「私の人権無さすぎ…!?」

 阿近くんが私にボストンバッグを渡してくる。そこそこ重い。

「これがネムの荷物だ。毎月研究費を振り込むからよろしくな」

 荷物と子育てを押し付けられている。なんて父親とその部下なんだ。

「卯ノ花隊長にはすでに話が行ってて、四番隊に籍を作ってもらった。浦原四席の補佐においてくれるそうだ」
「阿近くん至れり尽くせりだけど結局押し付けだよね?」
「話は以上ダヨ。帰りたまえ」

 そして有無を言わせず十二番隊から追い出された。隣には私の死覇装の袖を掴んだネムちゃん。

「喜多さん」
「………とりあえず、もう退勤の時間だし、直帰申請もしてあるから、私の家に行こうか…」

 同居人が増えた。周囲に聞かれたらなんて説明したらいいんだろうなァ………。

_________


 ネムを連れて出勤した。四番隊に紹介したところ、かわいい彼女は一瞬で人気者になった。スキスキ言われて照れくさいのか、注目されて恥ずかしいのか、途中から私の後ろに隠れ出したのはとてもかわいくて私は天に昇ったり書類ミスって怒られたり忙しかった。

 なお、ネムは本当に賢くて、回道の手解きをしたらメキメキと上達していった。教えてもいないのに足音がしなくなっていたので、私は隠密機動の基礎を見せて覚えさせることにした。…私、隠密機動正式入隊後に習う内容は知らないんだけど、流石にそこまで教えろって意味じゃないよね?

 ネムと出勤しはじめてから初めて、六番隊に入隊した白哉くんと会ったけど、フルフルと衝撃にうち震える彼が見れた。

「………いつの間に…」
「チガウヨー。十二番隊から預かってるの」
「涅ネムです」
「…!?」

 驚き様があまりにもおかしくて死ぬほど笑った。刀を抜きそうだったのでネムを抱えて瞬歩で逃げた。

 まあそんなこんなで1か月、皆がネムの存在に慣れた頃、四番隊舎で殺気が炸裂した。

「喜多…誰との子…?!」
「待って杜屋ちゃん私の子じゃない」

 かくかくしかじかと説明して、杜屋ちゃんは何とか冷静を取り戻した。元四番隊とはいえ十一番隊副隊長になっちゃうような女の殺意はなかなかヤバい。部屋の外で何人か倒れたって大騒ぎしてるが、ネムは何ともなさそうで感心した。ネムが名前を名乗ると、彼女も自己紹介をする。月に一度、回道の知識を増やすために四番隊へ講義を受けに来ていることも話す。

「杜屋さんからは戦闘技術を教われとマユリ様から言われています」
「…涅隊長に『早く四番隊に行け』って言われた理由、それかな」
「私は隠密機動と回道の手解きをしてるよ」

 二人で遠い目になる。

「エリート教育…」
「十二番隊は何を目指すんだろうね…」

 本当に、マユリさんの行き着く先は何なのだろうか。兄といいマユリさんといい、曳舟隊長より後の十二番隊はまともな隊長が就任していなくて可哀想になってくるが、隊員もあわせて変人に進化したり元々そういう人しかとらなかったりするようになったのでもうなんと言うか、ハイ。合わないと思ったら転属して…。

「将来私の周りで死神になりたいって子がいたら、絶対十二番隊はやめとけって言うことにするね」
「もし書類仕事が出来そうな子だったら十一番隊に誘って」
「杜屋ちゃんも苦労してんな…」

 副隊長って大変だな…。今度うちの虎徹ちゃんに詫び菓子贈ろう、そうしよう。

_________


 今日はとある目的で実家に顔を出した。皆、年齢を問わず元気溌剌で、ネムを見るなり飛びついた。

「かわいい!可愛いぞ!喜多の子であるわけがない!」
「どこから誘拐したの?怒らないから言いなさい」
「大人達の発言がひどい」

 かくかくしかじか、とにかく職場の上司の子供を預かっているのだ、と説明する。お前に教育ができるものか!と言われたが、

「喜多さんは私にたくさんのことを教えてくださいます。あと、食事がとてもおいしいです」

照れつつもはっきりとネムが言ってくれたおかげで、私は優秀な保護者ということが証明された。ネム、私はすごく嬉しいよ。

 未だに隠密機動現役の大人達にネムの相手をお願いして、私は兄の私室に入る。頭と口を布巾で覆い、割烹着を着て仁王立ち。

「…よし、やるか!」

 目前にある大量のガラクタ、書類、よく分からぬ物品。とある目的とは、この中から、私たちにとって有益なものを探し出すことだった。とはいっても流石兄というか、場所ごとに一応モノが分類されているのでどこを漁るかは見当がつけられた。

 私の欲しいものは『卍解開放』関連。お兄ちゃんは卍解ができる男だったから、訓練のコツとかそういうものをまとめた書類だったり、『紅姫』の扱いを鍛えるための道具だったり、いろいろあったのではないかと思う。もし発見した暁には自分で使うのだ。

「これはイタズラ用……、夜一さんの防具…、うげ…これどう見ても呪いの道具じゃん…恨まれてるじゃん元カノに…」

 その呪いの道具すら発明品に昇華するお兄ちゃんのクズっぷりが笑えない。そうこうしているうちに山を掘り返し終えて床が見えた時、床下収納の扉を発見する。

「何で二階に床下収納…?!」

 訳が分からないよ…と思いつつその扉を開けたところ、よく分からない構造の発明品が置かれていた。試しに霊圧を流し込んでみれば、穿界門のようなものが出来た。なんだこれ――――そう思っていた時、崩れてきた山で体勢を崩す。

 私はものの見事に、それに落ちた。

「ああああああああああ!!!いやあああああああああ!!!!!」

 落下する。訳も分からぬまま絶叫して、垂直落下の感覚を過剰に味わいながら、

「縛道の三十七 吊星ィ!」

鬼道を組み上げて半泣きの状態で霊子の壁に受け止められる。自分を守る壁すら張れない女だったら間違いなく死んでいた。死んでいたよぉ…。あとネムがいなくてよかった。ネムの霊圧に引っ張られて霧散してたかもしれないから。

 なんとか地面に着地。荒野だ。頭上を見上げれば先ほど見た発明品もとい転移装置が設置されており、青空だと思っていたものは天井のペイントだった。かなり広い空間らしい。

 ここはどこだ、と掴趾追雀を発動して自分の所在地を探る。…え?双極?いやでも見えるのは荒野とペイント・スカイと岩場と枯れ木、あと温泉………。

「………ま、まさか…不法建築…」

 頭を抱えた。お兄ちゃんのいたずら第n作である。しかもよりによって処刑施設の真下。勘弁してほしい。流石にこんなにデカいもの、私にはどうしようもできない。

 仕方がないので、とりあえず探索することにした。出入口が兄の部屋だけな訳は無いし、見つけてしまったものはしょうがない、だから有効活用!

 荒野も岩場も普通のものだったので、どうやら訓練用に作った部屋らしい。空中を散歩してみたが、罠などの類は一切ないので、隠密用というよりは死神用のようだった。温泉は掴趾追雀で切った指先がみるみるうちに治ったので、天上――――零番隊の地獄風呂を参考に作った発明品かもしれない。

 温泉の傍で埃を被った行李を大小何個か見つけたので、全て開けてみる。お兄ちゃんと夜一さんの着替え、訓練道具、四楓院印の武具、発明品と思しき人形など、いろいろ入っていた。

――――お兄ちゃんと夜一さん、どこで修行してたんだろうって思ってたけど…ここでやってたのか。

 彼らの訓練に、私は呼ばれないことの方が多かった。鬼道を普通に扱えない私は隠密機動の術も大部分が扱えない。そんな私を放り込めば怪我待ったなしだ。それが分かっていたから、寂しかったけれど大人しくしていた。幼い時はテッサイさんが相手をしてくれていたが、彼も鬼道衆へ行ってしまったので、一人で過ごす時間は多かった。時々、現在砕蜂と名乗る彼女とかくれんぼをして、いつまでも見つけてもらえなかったり(イジメとかではなく純粋に見つけられなかったらしい、気づけば鬼が彼女+大人数人になっていた)、鬼事をして秒で鬼交代して泣かれたり(伊達に瞬神夜一に褒められる腕前ではない)、賑やかな思い出もある。

 懐かしいことを思い出してしまったなあ…と行李に蓋をしようとした時、人形の傍に手紙のようなものを見つける。宛名も無く、封もされていない。

「む………『これは転神体』…ええ?!隠密機動最重要特殊霊具じゃん!」

 マズいよ盗品か?!と真っ青になる。

『なお、これはボクが開発した原型にして改良済みの最新作です。だから、盗品?と思ったアナタはギャグのセンスが無いよ!』

 思わず手紙を地面にたたきつけた私は悪くない。

『この転神体に関しては、自分の霊圧で動かすことが出来ます。つまり、完全に一人で修行することが可能です。一回きり、三日間限定なので、最低三日は休日を連続させて修行することをオススメします』

 成程。斬魄刀を突き刺して誰かに動かしてもらう必要があったものを全て自分で賄えるようにしたのか。霊圧オバケじゃないとなかなかしんどそうだ。私はやれるだろうか…。

 説明書きをつらつらと読み、近いうちに休暇を取ってやってみようと考えた。失敗したらその時考えればいい。私も『朝凪』も、そういう性格だ。

 紙をめくる。最後には、これだけ書かれていた。

『喜多チャン 勝手にオニイチャンの部屋を漁ったことは許してあげるから、この場所は内緒にしてネ』

「ああああ!!!面倒!!!」

 この兄は本当にクソッタレである。

 結局出入口を発見して、綻びかけていたカムフラージュを修繕したり、お兄ちゃんの部屋の転送装置を隠したりする羽目になった。ついでだから夜一さんの服も洗濯したり繕ったりした。お兄ちゃんのは知らない。

 ああ、いつまでも面倒を被るのやめたいなあ。

_________

 ネムを預かって幾度目の休日。

「今日は大掃除をします」
「何故ですか?」
「帰ってこない兄の部屋を奪ってネムの部屋にするためです」

 家賃も入れず、音沙汰すら寄越さず何十年の兄の部屋、遂にガサ入れの時を迎えた。ネムの場合マユリさんから預かっている養育費の中に家賃も含まれているので、ネムは兄より同居人としての役割を果たしていることになる。だから兄の部屋を潰す。てか、実家に部屋あるからいいだろ。

「私は掃除と整理整頓。ネムはこの冊子を読んで、自分の部屋に何が欲しいかを考えて印をいれること。最終的に予算と相談で買うものを決めるから、この冊子はあくまでもイメージ。よろしいか?」
「はい」

 ネムには居間にいてもらい、私はせっせと兄の荷物を仕分け、ゴミを分別して袋に詰めていく。

 兄の荷物と言っても、私が私服を全然持っていないのと同じで兄も私服はほとんど持っていないし、この部屋に置かれていた趣味兼仕事の開発改造物品は十二番隊が回収してくれたので生活味のあるものはあまり無い。日記をつける人ではない…というか、私事を文面に記す必要がない人なので何か痕跡が紙に残ることだってあまりない――――そう思っていたが、箪笥の二重底から手紙が出てきた。


『喜多チャン 特別何か遺してなくてごめんね』

 記された階級はまだ席次がなく、封筒に押された判は二番隊時代のもの。つまり、かなり若い時の任務時に書かされた遺書のようだ。

「いや、むしろ遺されたら面倒だからいいかな…」

 病的にうまい秘密の仕事(いたずら)とか、破廉恥関係の面倒事(シュラヤバ)とか、未提出の書類(ふざけんな)とか、いろいろあったせいで私が割りを喰いまくっているのだ。何も残してくれない方が助かる。

 兄がいなくなってから、私は平和に生活できている――――夜一さん、テッサイさん、シンジさんやひよ里さん達がいないことがとても寂しいけれど。そう思いつつ兄の遺書を丁寧に自分の棚へ仕舞ってしまうことが悔しい。

 それからせっせと掃除をして、部屋はピカピカになった。まだ日没まで時間があるし、ネムが欲しいものを決めていたら買い出しに行けそうだ。

「決まったー?」
「はい」

 様子を見に行けば、ネムは冊子の印をつけた頁をバッと広げて持ってきてくれた。かわいい。だが、見せられたものはかわいくなかった。

「………えっと……」

 言葉を失う。何でオブジェクトの中でも臓物飛び交うホラー映画のようなセンスのものばかりなんだ。あれか?父親のせいか?そうだな?そうだろう?

 選び直させて、なんとか木製の温かみある家具でまとめることになった。

「グロテスクなものは控えめにね」
「わかりました」

 …マユリさんのところに帰すまでに、美的センスだけは正常な方向に改善させてあげたい。




朝凪の日常ショート・1