×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



 天気は快晴、青々として綺麗な空だ。喜多はいつものように髪をハーフアップにし、緑青色の私服を着て瀞霊廷内をぶらつく。

 今日は夜勤。いつもより遅い時間に起き上がったので、朝食兼昼食は外で一人――――と思ったのだが。

「あれ、喜多チャン」
「お兄ちゃん!」

 偶然入ったお店で兄と遭遇した。何という世間の狭さ。せっかくなら杜屋ちゃんとか夜一さんに会いたかったのに。ずずっと椅子を引かれる。

「隣おいでよ」
「しょうがないなあ」

 一人寂しくカウンター席に座る兄の隣に座る。私も一人だって?大丈夫だよ、兄と違って友達はたくさんいるから。

「何にしようかな」
「ひつまぶし美味しいっスよ」
「鰻は肉より臓器が好き〜、ってことで肝焼き確定」

 後は適当に白米と総菜を注文する。栄養バランス大事。

「今日は夜勤なんスね」
「そうだよ」
「また始末書にならないようにね」
「お騒がせなお兄ちゃんにだけは言われたくない」

 そんなァ、とへらへら笑う兄にげんなりする。…まあ、元気そうでなによりである。たまにはこちらの家にも帰ってきてほしいものだが、ひよ里さん曰く「前よりちゃんと生活しとる」ということなので咎めはしない。家賃も半額払ってくれているし。

 …時々『ボクの部屋に保管しておいて』と変な荷物を送りつけてくるのだけはやめてほしい。宿舎は倉庫ではない。

「へい、おまち」

 差し出された私の食事を受け取り、いただきますをして食べ始める。ああ、ここの肝焼き美味しいんだよなあ…タレが濃いから肝の苦みと混じりあってああ最高…。

「ボクのひつまぶし少しあげるんで肝焼き一口ちょうだい」
「はいよ」

 その後はいつものようにたわいもない会話をしながら食事を終え、各々料金を支払って店を出る。暇だし十二番隊の地下でまた体質活用鬼道の研究でもしようかと兄について行っていると、前方が騒がしい。

 何だ、と様子を見に行ってみれば、なんと自分の後輩がいるじゃないか。…そう言えば、今日は山登りイベ、じゃなくて、薬草取りの日か。

「浦原六席!」
「虎徹ちゃんどうした?」

 何か血塗れの子もいるんだけどどうして?と事情を聞けば、顔を真っ青にしている虎徹ちゃんが私の腕を掴む。

「西流魂街の外れで大虚が出現して、杜屋三席が足止めしてるんです!」

 …とんでもないことを聞いてしまった。血の気が引いていくのが分かる。

「分かった。…みんなは早く四番隊舎に。隊長に報告して」

 そう言ってお兄ちゃんの方を見れば、それはもう真剣な顔をしていて。

「斬魄刀を持って十二番隊、ボクの部屋に集合」

 言われるがまま四番隊舎へ瞬歩で駆け、斬魄刀を握りしめ十二番隊の隊首室へ向かう。もう通いすぎて(もしくは兄が迷惑をかけすぎて)顔パス状態な自由度で他隊の隊舎内を進み、隊首室の扉を開け放てば、お兄ちゃんがガサゴソと棚を漁っていた。中途半端に太くて長い細帯を引っ張り出す。

「これを使ってみようかなァ」
「何これ?」
「これでサクッと移動するんスよ」
「ええ?!」

 説明の間もなくお兄ちゃんが細帯に霊圧を込める。瞬く間にシュルシュルと私たち二人を包囲して、気づけば見覚えのある地下室に立っていた。

「あ、ここ秘密基地か」

 聞いて驚け、西流魂街の地下にお兄ちゃんがこっそり作った秘密基地だ。子供の時に『家出用』と称して作り上げたそれは一か月くらいなら普通に潜伏できる優秀な作りである。夜一さん、テッサイさんも連れて四人でここで遊んだ記憶がある。

「まだ決まった位置にしか飛べないんスよ〜、あとボクですら疲れるレベルで霊圧食われるんで。要改善ってとこっスね」

 くだらないことを思い出しているうちに、ほらこれ持って、と水筒を押し付けられる。兄特製霊力回復ドリンクだそうだ。

「ではボクは戻ります。勝手に行くと怒られるんで。気を付けて」
「うん。ありがとうお兄ちゃん」

 兄がまた例の道具を使ってこっそり瀞霊廷へ戻る。…兄は十二番隊になっても隠密機動のつもりなのだろうか。

 ってか、勝手に行くと怒られるって、それ私もじゃない?――――とは言え仲間の命が掛かっているのだ。ましてや親友の命、虚に渡してたまるものか。

 そうして私は現場へと到着し、虚を切り刻んでいる杜屋ちゃんを発見したわけである。流石に霊圧はゴリゴリ削られたみたいだが、それでもギリアン相手に無傷とか強いよ杜屋ちゃん…。

 おーい、と声をかけようとして、膨大な霊圧が集約するのが見えた。あれって虚閃じゃない?射線上…西流魂街あるじゃん。マズすぎ!

「うわあふざけてる場合じゃない」

 斬魄刀をすらりと構える。射線中央に位置を取り、

「願え、『朝凪』!」

始解してその能力を躊躇なく使用した。

 私の斬魄刀、名を『朝凪』。始解すると鍔に鈴を五つつけるそれは私の霊圧増幅器である…と思っていたが、最近自分の体質が正確に把握できたお陰で、私の体質拡張器であることが判明した。鬼道で撃ち出したり、回道で使用していた私の体質を、刀で振るうことが出来る。

 そんななので、私は『操作する霊子が対象物の構成霊子に同化する特異体質』――――便宜上『調和』と呼ぶことにしたその力で、刀に触れた虚閃を霧散させた。

「賭けだったけど、上手くいったなァ…」
『見事!』
「反鬼相殺みたいに見えるかな?」
『いけるいける』

 『朝凪』のノリの軽い返答に苦笑しながら、杜屋ちゃんに声をかける。彼女は驚いてる。まあそうだよね!

 花まみれになっている彼女に霊力回復ドリンクを渡す。それを飲み、花冠を経由して状況報告を上げている間、私は放たれる虚閃を霧散させる。結構霊圧吹っ飛ぶ。しんどい。

 杜屋ちゃんの斬魄刀は花冠を経由して『思い』のやり取りをする。…多分、『薄紅葵』は他人の心が読めるのだと思う。表情を表に出せない彼女を支えるために生まれた、優しい斬魄刀なのではないだろうか。

「卯ノ花隊長が『無事に帰りなさい』と」
「そう命令されては五体満足で帰るしかないよね!」

 報告が終わったらしい、杜屋ちゃんの斬撃がギリアンに傷をつける。私も負けてられないなァと、彼女が斬りつける反対側に切れ目を入れていく。

「あと何発もつ?」
「三…やっぱ二」

 ちょっと盛ったら『朝凪』に全力で首を横に振られた。やっぱり見栄は張ってはいけない。『朝凪』の言うとおりである。

「喜多は体力の温存を。私が前に出る」
「分かった」

 戦闘力は彼女の方が圧倒的に上なので、前に出てもらう。私は斬魄刀の能力を鑑みれば防衛に徹する方が良い。実際、杜屋ちゃんはまだ一発も喰らっていないが、

「喜多!」

私は後退した端から喰らった。左肩が痛い。

「――――大、丈夫…!」
 
 虚閃の気配を感じ、鈴を鳴らして射線上へ飛び込み、刀を向ける。ごっそりと霊力を持っていかれ、左肩の痛みもあって膝をつく。

 ギリアンが間を空けずに霊力を集め始めた。ああこれマズいかも、こっちが先にくたばる。杜屋ちゃんが私の前に立ち、薄紅葵の花で壁を作ってくれたが、これはおそらく防げないだろう。鬼道の詠唱をしているが、間に合うか――――

 万事休す、そう思った時。

「打ち砕け!!『天狗丸』!!」

 見覚えのあるアフロヘアの男が私たちの正面に割り込み、発射された虚閃を相殺した。着ている隊長羽織に書かれた数字は七。

「浦原、杜屋、頑張ったな」
「え、愛川隊長?!」

 サングラスをしている顔がこちらを向く。彼は一声かけて私を俵担ぎすると、杜屋ちゃんに指示を飛ばす。

「離れるぞ。『あれ』は厄介だ」

 頷いた彼女と一緒にギリアンから距離を取って地上へ降りる。あれはどうするんだ――――と無理矢理振り返ると、さらりとした長い金髪が揺らめくのが見える。

「………」

 刀を上から下に振った気がしたのだが、ギリアンは下から上に斬れた。おかしな刀だなァ。

 ギリアンの消滅を眺めながら、握っていたと思っていたはずの『朝凪』を落とす。あ、なんか力が、はいら…ない…。

 杜屋ちゃんが何か言っている気がしたが、私には何もわからなかった。

 うう………。




戦え、浦原妹